インド・マドラス大学での法華経展 (1)

バルナーラー州知事(総長)のあいさつ
「東洋の智慧」を発掘する努力に敬意

 インドは、多くの宗教が誕生した地であります。ほぼすべての宗教がアジア大陸から発祥しております。
 インドは精神性の大地であり、多種多様な文化を存し、複数の言語が共存し、多様性の中の団結という偉大なる歴史を持っています。そしてインドは、非暴力と寛容を世界に教えました。
 仏教の中で最も重要で影響力を持ち、神聖な経典が法華経であります。
 そのメッセージは、仏の命であり、絶対的幸福であり、恐怖と、すべての命に巣食う幻想からの自由であります。内面の生命の強化によって、すべての人々は困難を乗り越え、他者と協調し、満足のいく人生を送ることができるというものです。
 今回、法華経の説話を通して、平和と共生のメッセージを広めるための"法華経展"が開催されたことは、まことに喜びに堪えません。
 また、法華経シルクロードを通り、インドから中央アジア、中国、韓国を経て、日本にたどり着いたことは、大変に素晴らしいことです。
 法華経はそれぞれの生命に勇気、智慧、慈悲が秘められていることを信じさせてくれます。
 成仏を達成することができる普遍的能力を、伝統的に認められなかった女性や悪人の成仏の例を通して示し、内面の決意とそが、すべてのものを転換していくことを説いています。
 池田博士によって創立された東洋哲学研究所は、法華経の精神に基づき、人々の価値ある人生に貢献し、東洋の伝統的な智慧の宝庫を発掘する努力をしておられます。
 また、インド創価学会が様々な展示活動を通して平和を促進され、既に50万の人々が見学したことは意義深いことです。
 東洋哲学研究所とインド創価学会を讃えるとともに、平和と調和のメッセージが広がることをお祈り申し上げます。

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ラマチャンドラン副総長のあいさつ
「すべての生命の尊厳と平等」を発信

 この"法華経展"が開催された大学評議会会館は、チェンナイで最も有名な歴史的建造物です。
 この会館を、シルクロードの地域から集められた法華経の貴重な写本、断簡、また、学術的資料、写真などの展示会場に選んでいただき、本学として、まことに光栄であります。
 古代の釈尊の教えは、すべてが無常であることに人々を目覚めさせ、苦悩から人間を解放しました。
 しかし、法華経は、それにとどまることなく、生命に内在し、かつ、宇宙の真理である仏界という生命を説き明かし、限りない慈悲の行動を可能にする「絶対的幸福」をあらわしました。
 法華経は、無常を強調したり、執着や欲望を消滅させるのではなく、すべての生命に内在する仏界を究極の存在として強調しています。それにより、日常の現実生活を強く肯定し、積極的に他者とかかわり、人間社会全体とかかわっていくことを強調しています。
 池田会長はスワミナサン博士との対談で、「法華経が明かした真理の中核は、『あらゆる生命は尊厳であり、平等である』という法理です。そして、その真理の実践が、不軽菩薩が行った万人尊敬の行動なのです」と述べておられます。
 このような貴重な人類の宝の展示が、卓越した法華経の精神世界を人間社会に展開する、有意義なものになることを確信します。
 インド創価学会は、インドにおいて平和・文化の展示活動を長年にわたり展開しておられます。
 チェンナイの市民、特に学生がこの展示を鑑賞し、「調和と平和」という法華経のメッセージを吸収することを心から念願し、大成功をお祈りいたします。

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池田SGI会長のメッセージ
 法華経こそ人類を救う大良薬
 「三毒」の世界を平和に変える光源

 一、私は、恩師・戸田城聖先生の写真を携えて、会長就任の翌年、1961年1月、インドヘと旅立ちました。香港、スリランカを経由して、マドラスの空港に到着したのは、1月31日の午後5時のことでありました。
 マドラス、すなわち現在のチェンナイは、私にとって、憧れの精神の大国・インド初訪問の第一歩を印した、忘れ得ぬ天地なのであります。
 貴国は、仏教発祥の地であり、偉大な精神の源流の国です。私たちの精神の故郷であり、「大恩の国」であり、「師匠の国」であります。このたびの"法華経展"の開催によって、この大恩に少しでもお応えできればと願っております。
 一、釈尊成道の地・ブッダガヤを訪れ、インド、そしてアジアの人々の幸福、人類の永遠の平和を祈ったことも、昨日のように鮮やかに思い出されます。
 私は夕闇迫るガンジスのほとりに立ち、仏教をもって世界平和に貢献していくためには、どのような方途があるかを思索しました。、
 そして、そのための第一歩として、東洋哲学研究所という学術研究機関を設立しようと決意したのです。
 その第1の理由は、インドから世界に発信された平和と調和のメッセージであり、人類の精神的遺産である仏教、なかんずく法華経を決して過去のものとして終わらせてはならない。文献学的、思想的、歴史的に研究を進め、その「普遍的価値」を明らかにし、未来を創造する指標として人類に提示することが必要であると考えたからです。
 第2は、民族、文化、宗教の差異を互いに理解し合い、ともに協力し合いながら、人類の未来のための「文明間対話」「宗教間対話」を推進する必要があると考えたからです。
 翌年の1962年1月に東洋哲学研究所を設立し、本年で45年となりました。
 一、人類に平和と共存の智慧を送り続けた法華経
 譬喩品では、この現実世界の様相を、炎に包まれている家──「火宅」と表現し、仏は苦悩と恐怖の炎に焼かれる民衆を救済するために、この婆婆世界に出現すると説かれています。
 「三界は安きこと無し 猶お火宅の和し 衆苦(しゅく)は充満して 甚だ怖畏す可し 常に生老 病死の憂患(うげん)有り 是の如き等の火は熾然(しねん)として息(やす)まず」
 21世紀に入っても、世界は核戦争の危機、地球温暖化に象徴される環境問題の中にあり、幾多の民衆が飢餓や貧困に坤吟し、地域紛争やテロは一向にやまず、「憎悪と暴力」の連鎖が続いております。
 では、そのような「火宅」の根本的な原因は一体、どこにあるのか。
 法華経は、人間生命の内奥を深く探索し、「貪(むさぼり)・瞋(いかり)・痴(おろか)」の「三毒」を見出しました。果てしなく貪り求める欲望の心、エゴイズムや怒り、憎悪の心などの煩悩の火が、地球上に「火宅」の様相をもたらしているのであります。
 法華経は、この人間生命の「三毒の火」を「智慧の光」へと転換する方途を示しました。
 南インド出身の大乗仏教の大成者であるナーガールジュナ(竜樹(りゅうじゅ))は、『大智度論(だいちどろん)』の中で、法華経の偉大さを、腕のいい薬剤師に喩え、次のように述べております。
 「譬えば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」
 つまり、もともと「毒」として作用する材料を巧みに調合することによって、患者の病を治す「良薬」として活用することができるという譬喩であります。ここでいう「毒」とは「煩悩」すなわち「悪性」を指し、「薬」とは「菩提」すなわち「善」を指します。
 13世紀の日本の日蓮大聖人は、このナーガールジュナ(竜樹)の解釈を受けて、さらに次のように述べておられます。
 ──「毒」とは煩悩(ぼんのう)道・業(ごう)道・苦(く)道の「三道」のことであり、我々人間の生命のなかの悪性と、悪い行為と、生老病死に象徴される苦悩の境涯のことである。
 「薬」とは法身(ほっしん)・般若(はんにゃ)・解脱(げだつ)の三徳のことであり、清浄で力強い仏の生命と、輝く智慧と、自由自在の大福運の境涯のことである。
 人類の苦悩を救済する偉大な医者にたとえられる法華経には、この「三道」を「三徳」に転換し、その人のいる所を平和で安穏なる常寂光土に転換していく偉大な力が備わっている──と。
 その力とは、法華経に示される「仏性」(「仏知見」)であります。暴力性とエゴイズムと無明にとらわれ、相争う「人間」自身の中に、実は本来、無限の幸福を創造する「仏性」が内在しているのであり、その力を発現させていくべきであると教えられております。
 まさに法華経は、人類にとっての「大良薬」であり、偉大な「生命蘇生の法」なのであります。
 一、このたびの"法華経展"では、多くの言語に翻訳されてきた仏教写本資料が展示されております。
 これらを通し、仏教写本がいかに長期間にわたって、広大な地域で、さまざまな民族によって書写され受け継がれてきたかを、ご理解いただけるでありましょう。
 まさしく法華経は、無限の「希望の哲学」「幸福の哲学」「平和の哲学」であり、決して「過去の文化遺産」ではありません。人類の未来を照らす巨大な光源として、価値創造し続ける永遠の経典なのであります。
 私は、この貴国の英知が再び全世界を照らし、人類の境涯を高めゆく「インド・ルネサンス」の光明を放ち続けていかれることを切望してやみません。
 1995年、チェンナイで、私に世界桂冠詩人の称号を贈ってくださった世界詩歌協会会長のクリシュナ・スリニバス博士は、詩集『ブッダ──人間主義の勝利』の中で、法華経の魂を高らかに謳われております。
 「仏は常に存在している。過去も、現在も、未来も。
 仏は言った。『私はいつもここに在って、法を広めている』
 如何なる時代にあっても、赤々と燃える自身を露わにして。
 蓮華は、泥沼の中に根を張り、光り輝く花びらと共に輝く。
 菩薩も、人生の喜びと悲しみの泥沼にあり。
 灯台として赤々と燃え、暗闇の世界に光をもたらす」
 最後に、世界に冠たる英知の殿堂である貴・マドラス大学の永遠なる栄光と、仏教大恩の故郷・インドの無窮なる平和と繁栄を心よりお祈り申し上げます(大拍手)。

インドマドラス大学での法華経展から〔完〕




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