2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

小説「新・人間革命」厚田 53  2012年8月16日

一九五七年(昭和三十二年)夏、戸田城聖と共に北海道を訪問した山本伸一は、函館にも立ち寄った。 その折、漆原芳子の真剣な活動への取り組みを聞き、激励の歌を贈った。 東海の 歌を詩いし 人よりも 君ぞ雄々しや 広布の指揮とれ 「東海の歌を詩いし人」と…

小説「新・人間革命」厚田 52  2012年8月15日

助教授候補となった漆原芳子は、小樽や苫小牧へ、御書講義に行くようになった。 困ったことには、御書を開いてもわからないことばかりである。しかし、身近には、教えてくれる人はいなかった。 悩んだ。教学理論誌の『大白蓮華』を第一号から取り寄せ、必死…

小説「新・人間革命」厚田 51  2012年8月14日

漆原芳子が函館支部の女子部の責任者になって三カ月後、再び教学部の任用試験が迫ってきた。 当時、教学部員になるには、まず教学部員候補採用試験を受けなければならなかった。 この試験に合格したあと、「当体義抄」「撰時抄」、御消息文、「三重秘伝抄」…

小説「新・人間革命」厚田 50  2012年8月13日

漆原芳子は、病を克服しようと、懸命に信心に励んだ。すると、入会三カ月余りで、職場に復帰することができた。 その直前、あの「小樽問答」が行われた。彼女も、この法論を傍聴した。 山本伸一の司会第一声から相手の誤りを突き、学会が大勝利を収めたので…

小説「新・人間革命」厚田 49  2012年8月11日

座談会では、中心者の婦人が、人間の幸・不幸と信仰の関係について、熱心に語ってく れた。 漆原芳子も母も、心から納得した。そして、二人だけでなく、父、同居している弟、妹も一緒に入会したのだ。 一九五四年(昭和二十九年)十二月のことである。 最初…

小説「新・人間革命」厚田 48  2012年8月10日

漆原芳子が、割れた窓ガラスで負傷したころ、東京の美術館に向かう友人たちは、青函連絡船「洞爺丸」に乗船し、函館港防波堤の灯台近くの海上にいた。 「洞爺丸」の船長は、天候は回復すると判断し、約四時間遅れで、午後六時三十九分に函館港を離岸した。だ…

小説「新・人間革命」厚田 47  2012年8月9日

漆原芳子は、北海道の函館生まれで、子どものころから画家を志し、東京の美術大学への進学を希望していた。 しかし、父親が定年を迎え、家には経済的な余裕がなかった。 彼女は、奨学金を受け、地元の北海道学芸大学函館分校(当時)の二年課程に進んだ。美…

小説「新・人間革命」厚田 46  2012年8月8日

生命は永遠である。ゆえに、老いとは、終局を待つ日々ではない。今世の人生の総仕上げであるとともに、次の新しき生への準備期間なのである。 命の尽き果てるまで、唱題に励み、師と共に、愛する同志と共に、広宣流布の大願に生き抜いていくのだ。 そして、…

小説「新・人間革命」厚田 45  2012年8月7日

日蓮大聖人は、仏界の生命を確立して亡くなった方は、死後も、すぐに、九界のこの世界に帰って来て、広宣流布の大舞台に躍り出ると述べられた。 生死は不二である。生と死は、別のものではなく連続しており、いわば表裏の関係にあるといってよい。 死して「…

小説「新・人間革命」厚田 44  2012年8月6日

死の解明は、宗教の使命である。そこから、いかに生きるかという人生観がつくられていく。 ゆえに日蓮大聖人は、「先臨終の事を習うて後に他事を習うべし」(御書一四〇四p)と仰せになっている。 また、大聖人は、信心を貫き通した人は、死後も、妙法によ…

小説「新・人間革命」厚田 43  2012年8月4日

追善法要に集った人びとは、目を輝かせながら、山本伸一の話に耳を傾けていた。 「私たちは、必ず臨終の時を迎えます。しかし、生命は永遠です。自分の生命がなくなるわけではありません。大宇宙に冥伏するんです。 ちょうど、一日を終えて、眠りに就く よう…

小説「新・人間革命」厚田 42  2012年8月3日

石崎好治は、草創の地区部長、支部長などを歴任する一方、北海道教育部長も務め、一九七五年(昭和五十年)に他界するまで、人間教育の開拓のクワを振るい続けてきたのである。 山本伸一は、石崎をはじめ、名誉称号が授与される故人の名前が読み上げられるた…

小説「新・人間革命」厚田 41  2012年8月2日

山本伸一には、石崎聖子の胸の内がよくわかった。彼は、笑顔で包み込むように語った。 「この座談会は、大成功でしたよ。 何も悲観する必要はありません。あの教員の方々の心には、しっかりと、仏法のこと、学会のことが打ち込まれていますよ。 それに、私は…

小説「新・人間革命」厚田 40  2012年8月1日

山本伸一は、静かだが、力のこもった口調で語り始めた。 「もし、皆さんが、仏法について、本当にお聞きになりたいのなら、お話しさせていただきます。 まず、私の話を最後までお聞きください。 仏法の概要について述べたあと、質問もお受けし、懇談いたした…

小説「新・人間革命」厚田 39  2012年7月31日

質疑応答に入ると、教員たちは、「信心で幸せになれるというなら、学会員に失業者や、病気で苦しんでいる人がいるのは、おかしいではないか」などと反論し始めた。 担当の地区部長は、「今は、そうでも、信心を続けていけば、必ず解決できます」と答えた。す…

小説「新・人間革命」厚田 38  2012年7月30日

厚田村は、晴天続きであった。 十月三日も、さわやかな青空であった。 この日は、戸田講堂で、北海道の広布功労者に対する追善法要が営まれた。 物故者に名を連ねる百五十二人は、皆、山本伸一にとって、忘れ得ぬ共戦の同志たちであった。 勤行の導師を務め…

小説「新・人間革命」厚田 37  2012年7月28日

飯野夫妻が、「聖教新聞」の運搬を買って出てくれたことによって、その日のうちに、厚田村、浜益村の同志の手に、新聞が届くようになったのである。 村の同志にとって、それが、どれほど、大きな励みとなり、勇気となっていったか、計り知れないものがある。…

小説「新・人間革命」厚田 36  2012年7月27日

飯野富雄とチヨは、やがて厚田総ブロックの総ブロック長、総ブロック委員の任命を受けた。厚田総ブロックには、厚田村だけでなく、隣接する浜益村も含まれていた。 そのころ、厚田村までの「聖教新聞」の輸送体制は整ったが、浜益村は、依然として郵送であっ…

小説「新・人間革命」厚田 35  2012年7月26日

飯野富雄と妻のチヨは、ある時、厚田地区の初代地区部長であった山内悦郎から、厚田村の使命について聞かされた。 「厚田村はね、第二代会長・戸田城聖先生の故郷なんですよ。 山本先生も、青年時代に戸田先生と一緒に厚田村に来られ、世界の広宣流布を決意…

小説「新・人間革命」厚田 34  2012年7月25日

飯野富雄と妻のチヨは、厚田川の近くで喫茶店を営んでいた。それを聞いた山本伸一は、すぐに飯野の店を訪問することにした。 店の名は「厚田川」で、自宅の一角を改装し、店舗にしていた。 伸一と峯子は、店のカウンター席に腰を下ろし、コーヒーを注文した…

小説「新・人間革命」厚田 33  2012年7月24日

厚田総ブロックの指導委員・飯野富雄は、同総ブロックの初代総ブロック長を務めた、四十代半ばの恰幅のよい壮年であった。黒縁のメガネが、よく似合っていた。 飯野が山本伸一に言った。 「この季節は、ちょうど鮭が遡上して来る時季なんですが、近年、厚田…

小説「新・人間革命」厚田 32  2012年7月23日

山本伸一は、未来会のメンバー一人ひとりに、じっと視線を注ぎながら言葉をついだ。 「順風満帆に生きて、苦労もせずに、成功を収めた人などいません。 失敗も、挫折もなく、人生の勝利者になった人もいません。 泣く思いで苦労に耐え、何度も絶望の淵に立ち…

小説「新・人間革命」厚田 31  2012年7月21日

「人を作れよ、然り、人物を作れよ」(注=2面)とは、思想家・内村鑑三の叫びである。 十月二日の午後、山本伸一は、戸田講堂の食堂で行われた、「北海道未来会」第四期の結成式に出席した。中等部、高等部の代表二十六人からなる人材育成グループである。…

小説「新・人間革命」厚田 30  2012年7月20日

戸田記念墓園の開園式は、会場の広場に立つ、詩「厚田村」の大きな碑に向かって、皆で、この歌を大合唱して終了した。 式典が終わると、山本伸一は風雪に耐え、厚田広布に一途に邁進してきた厚田総ブロックのメンバーと記念のカメラに納まった。 彼は、皆に…

小説「新・人間革命」厚田 29  2012年7月19日

山本伸一は、未来に思いを馳せながら、北海道の友に呼びかけた。 「戸田先生を顕彰するこの墓地公園には、国内にとどまらず、将来は、世界各地から、多くの人びとが来られるでありましょう。 どうか、その意味からも、この厚田に、世界の模範となる、麗しい…

小説「新・人間革命」厚田 28  2012年7月18日

山本伸一は、ここで御書の一節を拝した。 「『法華経を信ずる人は冬のごとし冬は必ず春となる、いまだ昔よりきかず・みず冬の秋とかへれる事を』(一二五三㌻) この御文の意味は、そのまま、この厚田村の風情に通じます。 厚田は、〝北海凍る〟と詩にも詠ん…

小説「新・人間革命」 2012年 7月17日 厚田27

山本伸一のスピーチとなった。 彼はまず、厚田村の村長ら来賓をはじめ、墓地公園建設に携わった関係者に、深い感謝の意を表した。 そして、毅然とした声で語り始めた。 「ホール・ケインの名著『永遠の都』のなかで、主人公のロッシィが綴る手紙の一節に、こ…

小説「新・人間革命」 2012年 7月16日 厚田26

戸田記念墓地公園のオープンを祝賀するかのように、美事な青空が広がり、太陽は白金に燃え輝いていた。 十月二日午前十一時、墓地公園内の戸田記念広場で、北海道の同志の代表ら二千五百人が参加し、墓園の開園式が挙行された。 二日は戸田城聖の命日である…

小説「新・人間革命」厚田 25  2012年7月14日

山本伸一は、元藤商店の数坪ほどの店内に並べられた商品を、次々と購入していった。 「このネギも、キャベツも、それから、あのブドウもいただきます」 さらに彼は、酢、ソース、殺虫剤、菓子、パンなども買った。 店の一隅には、うま味調味料の瓶も並んでい…

小説「新・人間革命」厚田 24  2012年7月13日

山本伸一は、祝賀の集いに続いて県長会に出席したあと、厚田村の望来でブロック長、ブロック担当員として活躍する、元藤徹・トミ夫妻が営む食料・雑貨店に向かった。 彼は、一九六〇年(昭和三十五年)に厚田村を訪問した折、当時、鮮魚店をしていた元藤夫妻…