小説「新・人間革命」厚田 39  2012年7月31日

質疑応答に入ると、教員たちは、「信心で幸せになれるというなら、学会員に失業者や、病気で苦しんでいる人がいるのは、おかしいではないか」などと反論し始めた。
担当の地区部長は、「今は、そうでも、信心を続けていけば、必ず解決できます」と答えた。すると、「それは、逃げ口上だろう」「では、いつになったら解決するんだ。
明日か、明後日か!」「結局、宗教はアヘンなんだよ。信じれば、刹那の陶酔が得られるだけの話だろう」と口々に言いだすのだ。
彼らは、何を言っても、真面目に話を聞こうという態度ではなかった。
学会への偏見があり、ともかく言い負かしてやろうという感情が先に立っていたのであろう。
地区部長は、彼らの勢いに押されてか、口ごもり、立ち往生してしまった。額に汗が滲んでいた。一緒にいた男子部の幹部は、席を外し、外に出て行った。
青年が出て行くと、教員の一人が言った。
「若いのは、逃げ出してしまったじゃないか。わしらに負けるのが怖いんだろう」
ほどなくして、青年は、別の座談会に出席していた山本伸一を連れて帰って来た。
伸一は、御書を手にして姿を現すと、仏壇に向かって、音吐朗々と題目を三唱した。厳粛な雰囲気が会場を包んだ。
それから、彼は、丁重にあいさつした。
「私は、創価学会山本伸一と申します。このたび、東京の本部から派遣され、札幌に来ております。よろしくお願いいたします。
お名前は、なんとおっしゃいますか」
教員たちは、伸一から漂う気迫に気圧されたのか、か細い声で名前を言った。
なかには、名乗ろうとしない人もいた。すると、伸一は、再度、「私は、山本でございます」と言い、相手の顔に視線を注いだ。
すると、しぶしぶ名を告げた。
仏法対話に際しては、常識豊かに、そして相手を包み込む慈愛の大きな心が大切である。
とともに、何ものをも恐れぬ、毅然とした態度で臨むことである。