小説「新・人間革命」厚田 31  2012年7月21日

「人を作れよ、然り、人物を作れよ」(注=2面)とは、思想家・内村鑑三の叫びである。
十月二日の午後、山本伸一は、戸田講堂の食堂で行われた、「北海道未来会」第四期の結成式に出席した。中等部、高等部の代表二十六人からなる人材育成グループである。
伸一が姿を現すと、皆の笑顔が弾けた。
伸一も、微笑を浮かべた。しかし、話を始めた彼の顔からは、笑みは消えていた。
『この一人ひとりが、広宣流布の大事な大事な後継者である。だからこそ、将来のために、厳しい話もしておかなければならない』と思ったのである。
「今日は、君たちの人生において、極めて大切なことを、簡潔に語っておきます」
力のこもった語調であった。
皆、居住まいを正した。
「人間にとって大事なことの一つは、『粘り』ということなんです。
ある意味で、人生は、絶望との戦いであるといえるかもしれません。
テストの結果もよくない。家庭環境も大変である。経済的にも厳しい。理想と自分の現実との間に、大きな隔たりがある──など、悩みの連続が人生であり、特に青春時代です。
そして、ともすれば、『自分はダメな人間なんだ』『なんの力もないんだ』と考え、卑屈になり、絶望的な思いをいだいてしまう。
しかし、そうではありません。『みんなが、尊い使命をもって生まれてきている。必ず自分らしく輝くことができる』と教えているのが仏法なんです。
では、どうすれば、自分を輝かせていくことができるのか──それは『粘り』です。
思うような結果がでない。失敗する。挫折する。時には、生きる気力さえなくなってしまうかもしれない。
それでもまた、立ち上がり、自分の目標に向かって進んでいく。その
粘り強さこそが大事なんです。
『力がなくてもいいじゃないか。かっこ悪くたっていいじゃないか。でも、自分は負けないぞ!』と、心の炎を燃やすことです」