小説「新・人間革命」厚田 32  2012年7月23日

山本伸一は、未来会のメンバー一人ひとりに、じっと視線を注ぎながら言葉をついだ。
「順風満帆に生きて、苦労もせずに、成功を収めた人などいません。
失敗も、挫折もなく、人生の勝利者になった人もいません。
泣く思いで苦労に耐え、何度も絶望の淵に立ちながら、粘り強く、前へ、前へと進んでいった人が、人生の勝利者になっているんです。
たとえ、失敗や敗北はあっても、絶対に腐ってはならない。いじけて、自らを卑しめることこそが敗北なんです。忍耐強い人が、最後に勝つ人なんです。
その粘り強さを身につけていくための唱題であり、仏道修行であることを忘れないでください。
人生の勝利の栄冠は、信心を根本に、執念に執念を尽くし、粘って粘って粘り抜き、自分の決めた道を歩んでいった人の頭上に輝くことを宣言しておきます」
メンバーは、頬を紅潮させ、瞳を輝かせて、伸一の指導に大きく頷いていた。
「七度倒れて八度起き上がるという、勇気ある人は即ち将来ある人である」(注)
これは、創価の父・牧口常三郎と親交の深かった、北海道ゆかりの教育者である新渡戸稲造箴言である。
伸一は、「北海道未来会」第四期生と記念撮影したあと、車で厚田川に向かった。
彼は、地元の厚田総ブロックの指導委員である飯野富雄から、「厚田川に鮭の群れが遡上してきておりますので、ぜひ、ご覧になってください」と言われていたのだ。
伸一と峯子が案内されたのは、厚田川に架かる厚田橋の付近であった。川幅は六十メートルほどあり、周囲には赤トンボが飛び交っていた。
土手の上には、二十人ほどのメンバーが集まり、川を指さしながら談笑していた。
伸一が車を降りると、歓声をあげ、?早く、早く?と言うように手招きした。
伸一が、川をのぞき込むと、十匹ほどの鮭の群れが、円を描くように泳いでいた。鮭の全長は、七、八十センチであろうか。