小説「新・人間革命」厚田 51  2012年8月14日

漆原芳子が函館支部の女子部の責任者になって三カ月後、再び教学部の任用試験が迫ってきた。
当時、教学部員になるには、まず教学部員候補採用試験を受けなければならなかった。
この試験に合格したあと、「当体義抄」「撰時抄」、御消息文、「三重秘伝抄」の講義が行われた。それを受講した人のみが、教学部任用試験を受験することができた。
漆原は、教学部員候補となり、講義も受講した。
そして、任用試験の合格に意欲を燃え上がらせていた。
彼女は、女子部のリーダーとして、受験者に訴えた。
「戸田先生は、女子部は教学で立つように指導されています。今度の任用試験は必ず合格しましょう」
東京から指導に来た幹部が、受験者のために勉強会を開いてくれた。
その帰り道、前を歩いていた女子部員の話が、芳子の耳に飛び込んできた。
「私たちは、落ちても仕方ないわよね」
「そうよね。幹部である漆原さんだって、教学部員になっていないし……。
だから、私たちは、焦ることはないわよね」
落雷に打たれたような衝撃を受けた。「率先垂範」といわれるが、そうでなければ、指揮も、皆の意欲も、低下してしまうことを、身に染みて知った瞬間であった。
〝絶対に合格しなければ!〟
彼女は、寸暇を惜しんで猛勉強に励んだ。
任用試験は、第一次となる筆記試験が十一月十一日に実施され、全国で三千六百人余が受験した。
この試験の合格者に対して、さらに、第二次試験として口頭試問が行われた。
その結果、助師に千三百十八人、講師に百二十九人の登用が決まったのである。
また、成績優秀者五人が、一挙に助教授候補に登用された。
助教授と同様に講義を担当し、助教授になることができる資格である。
漆原は、この助教授候補になったのだ。
リーダーとしての責任の自覚は、人間の力を引き出し、急成長させる原動力となる。