小説「新・人間革命」厚田 28  2012年7月18日

山本伸一は、ここで御書の一節を拝した。
「『法華経を信ずる人は冬のごとし冬は必ず春となる、いまだ昔よりきかず・みず冬の秋とかへれる事を』(一二五三㌻)
この御文の意味は、そのまま、この厚田村の風情に通じます。
厚田は、〝北海凍る〟と詩にも詠んだごとく、たしかに北風の村であり、厳寒の地であるかもしれません。
しかし、法華経は冬の信心です。そこに、私が、恩師の故郷・厚田の天地を、愛するゆえんがあるのであります。
真実の人間の価値というものは、その人の生命的境涯にある。
温暖無風の環境で、何不自由なく生き、ただ安逸をむさぼっていたのでは、人間的な成長はない。
それでは、境涯革命していくどころか、むしろ、堕落していってしまう。それに対して、『逆境こそ、境涯革命の母』と言えましょう。
いかに貧しく、厳寒のごとき環境にあろうと、決して挫けることなく、希望の炎を燃え上がらせ、生き生きと、わが生命を発動させていく
――そのなかにこそ、真の人生の価値があります。
ゆえに私は、この日本海の荒波猛る厳寒の厚田を、人生の原点の地とし、信心の姿勢を常に確認していこうと決意しております。
『生死即涅槃』の仏法です。苦悩の闇が深ければ深いほど、まばゆい大歓喜の光が降り注ぎます。
厳寒の地における春の訪れには、ほかでは味わうことのできない、大きな希望と喜びがあります。
法華経は冬の信心である。冬は必ず春となるのだ〟と強く確信し、粘り強く苦難への挑戦を繰り返してください。
そこにこそ、人生を最も豊かに充実させていく根本方軌があります。
私どもは、戸田先生の故郷・厚田を、共々に〝人生の原点の地〟〝心の故郷〟と定め、〝生死不二の永遠の都〟にしてまいりたいと思いますが、いかがでしょうか!」
賛同の大拍手が、潮騒のように厚田の空に舞った。それは、試練の北風に挑み立たんとする、弟子一同の誓いの拍手でもあった。
 
■語句の解説
◎生死即涅槃  生死とは、苦しみや迷いのことで、涅槃とは、悟りの境地をいう。法華経では、生死の苦しみが、そのまま悟りへと転じていけることが明かされている。