小説「新・人間革命」厚田 25  2012年7月14日

山本伸一は、元藤商店の数坪ほどの店内に並べられた商品を、次々と購入していった。
「このネギも、キャベツも、それから、あのブドウもいただきます」
さらに彼は、酢、ソース、殺虫剤、菓子、パンなども買った。
店の一隅には、うま味調味料の瓶も並んでいた。その瓶は埃を被っていた。
「これは、あまり売れていないようですね。これも全部ください」
「埃だらけですみません。それにしても、本当に買われるんですか?」
元藤徹が言うと、伸一は屈託のない笑みを浮かべた。
「あなたのお店の物なら、なんでも買わせていただきます。この秤も買いましょう」
「これは、商売道具ですから……。それに、あまり買っていただくと、明日から売る物がなくなってしまいます」
店内に、笑いが広がった。
元藤の妻・トミは、伸一が購入した品々を、せっせと段ボールに入れていた。
笑っていた元藤徹の顔が、次第に感無量の面持ちになっていった。彼は思った。
?十七年前におっしゃった一言を忘れず、お忙しいなか、わざわざ私の店を訪ねてくださった。
そして、私を励まそうと、買い物までしてくださる。こんな方が、この世界のどこにいるだろうか……?
買い物を終えると、伸一は夫妻に言った。
「小さな商店は、大きなスーパーなどと比べれば、生み出す利益は少ないかも知れません。しかし、地域の人びとの生活を支える、大事な生命線の役割を担っています。
どうか、地域に根を張り、信頼の大樹となってください。お店が繁盛し、ご夫妻が幸せになることが、信心の勝利です。
また、おじゃまします。お元気で!」
元藤徹は、伸一の言葉に、ハッとした。
?家族の生活を守るためだけの店じゃないんだ。地域の人びとの生活を支えるための店なんだ?──そう思うと深い使命を感じた。