小説「新・人間革命」  3月9日   潮流36

 ハリー・ハンクスの質問に、ブルース・ウィルマーは、笑顔で答えた。

 「そうなんだ。ぼくの心は、大きく変わった。実は、このことを、君にどうやって話そうか、考えていた。そして、君が信心できるように、祈ってきたんだよ」

 「えっ、祈ってきたって?」

 ウィルマーは語り始めた。

 ――交通事故の後遺症に苦しんでいた妻が、仏法の話を聞き、信心を始めて、その後遺症を克服。それを見て、自分も入信したこと。

仏法は宇宙の根本法則であり、生命の因果の法則であること。唱題によって、自らの生命を変え、人間革命ができること……。

 「南無妙法蓮華経と、題目を唱えることによって、宇宙の根本法と自分の生命が合致して、最高の歓喜がわくんだ。そして、真剣に祈っていくならば、願いも必ず叶う」

 ハンクスは、心を動かされはしたが、信じがたい話だと思った。

 「君の言うことはわかるが、その言葉を唱えることで、何かが起こるとは思えないな」

 「初めから信じる必要はない。信じられなくとも、実践してみれば結果が出る。そうなれば必ず信じるようになるよ」

 ハンクスは考えた。

 “地球の重力は信じようと信じまいと、現実に存在する。仏法という生命の因果の法則があるのならば、確かに実践することによって、なんらかの結果が出るにちがいない”

 そして、彼は入信を決意したのである。

 その二日後、シアトル市内で行われた学会の会合に出かけていった。この宗教が、本当に自分が探し求めていたものかどうかを、確認したかったのである。

 会場のアパートに着いた時には、会合は終了していた。しかし、ハンクスのために、二人のメンバーが体験発表し、ねぎらいの言葉をかけ、励ましてくれた。

 彼は“人間の心”に触れた思いがした。

 友の幸福を願う真心の一念が織り成す、人間共和の世界――それが創価学会である。