小説「新・人間革命」 懸け橋26  8月29日

山本伸一は、言葉をついだ。

 「私どもは、戦争に反対し、平和と民衆の幸福を追求するという一貫した姿勢のうえから、この訪ソを第一歩として、誠心誠意、友好交流を推進していくことを、お約束申し上げます」

 限られた時間のなかでのルベン議長との会見である。伸一は通り一遍のあいさつで終わるのではなく、短時間でも、平和と友好への流れを開く語らいにしたかった。

 だから彼は、初めから平和への思いと決意をぶつけたのである。

 伸一の話にこたえて、議長は言った。

 「山本会長は大学者であり、また、大ヒューマニストであると伺っております。私どもは、皆さんの訪問を心から歓迎します」

 そして、平和を実現するための、ソ連の基本方針に言及していった。

 「ソ連は、すべての国と友情によって結ばれることをめざしています。私どもは、永遠の友好を望んでいます。

 それを実現するには、実現可能なことから着手し、速やかに相互交流を進めていくことが大事であると考えています。

 その意味から、モスクワ大学と日本の創価大学が交流していくことは、極めて大きな意義があると思います。

 若い世代には、われわれの将来が託されています。若いということは、それ自体、未来の希望にほかなりません。

 その青年たちが、新しいヒューマニズムに結ばれてこそ、世界の平和もあります」

 伸一は、大きく頷きながら言った。

 「全面的に賛成です。

 友好の大河を開くには、一時的な利害にとらわれるのではなく、誠実に、五年、十年と歳月をかけ、友情を育んでいくことが必要です。

 それには、民間レベルでの文化の交流が大事になります。

 私は、日本とソ連との民間交流の道を開くために、生涯をかける決意でおります」

 伸一が言うと、議長は笑みを浮かべて、彼の手を強く握り締めた。

 「自分の一生を、平和のために捧げようとされている山本会長に、敬意を表します」

 ルベン議長も未来を見つめていたのだ。

 信念の共鳴がクレムリンに広がった。