小説「新・人間革命」  懸け橋31  9月4日

コワレンコ副会長は、ドンドンとテーブルを叩き、山本伸一を鋭い目で、じっと見すえながら言った。

 「あなたたちは、ソ連を敵視した平和友好条約に荷担して、ソ連を敵に回すべきではない!」

 是が非でもそうさせてみせるという傲然たる自信に満ちた声であった。

 伸一は、ニッコリ微笑むと言った。

 「その手、痛くないですか!」

 コワレンコは拍子抜けしたような顔で、伸一を見た。

 伸一は、穏やかな口調で語り始めた。

 「コワレンコ先生。私は政治交渉のために貴国を訪問したのではありません。一民間人として、教育者として招待をお受けいたしました。

 私は、民間交流、教育・文化交流の流れを開き、永続的な平和友好の大きな潮流をつくりたいんです」

 今度は伸一の方がドンドンとテーブルを叩きながら、コワレンコ副会長の目を見すえて語った。

 「こうした、強硬で一方的な姿勢では、ソ連は嫌われます。対話のできない国だと思われます。

 それでは、あなたたちが損をします!」

 それから伸一は、また微笑を浮かべ、諭すように話した。

 「日本と中国が、どんな平和友好条約を結ぼうと、振り回される必要はないではありませんか。

 ソ連は日本と、もっと親密な、もっと強い絆の平和友好条約を結べばいいではないですか。

 大きな心で進むことです。本当の信頼を勝ち取ることです」

 この夜、二人の語らいは弾んだ。

 最後に伸一は言った。

 「私は、日ソ両国が、真の友情で結ばれることを念願しています。そのために、率直に、本当のことを言わせていただきます。これからも、大いに対話しましょう。激論を交わし合いましょう」

 以来、コワレンコは、何度となく伸一の部屋を訪れ、忌憚ない対話を交わすことになる。互いにテーブルを叩き合っての議論もあった。

 そして、二人の間には、深い友情が育まれていくのだ。

 勇気をもって真実を語ってこそ、心の扉は開かれ、魂の光が差し込む。それが、信頼の苗を育んでいくのだ。それが、折伏精神ということだ。