2008年4月20日 聖教新聞 随筆人間世紀の光 158 「聖教」創刊57周年に贈る-2  山本 伸一

2008年4月20日 聖教新聞
随筆人間世紀の光 158 「聖教」創刊57周年に贈る-2  山本 伸一

"言論封じ"を打破

 御書にも、「諸方に讒言を企てて余が口を塞がんとはげみしなり」(三四八ページ)と喝破されている。
 迫害の常套手段は、「言論封じ」なのだ。
 嫉妬に狂った坊主らは、「我が智力叶わざるゆへに」(御書一二九三ページ)、大聖人に対して「無尽の讒言」「種種の讒奏」を浴びせ続けたのである。
 しかし「師子の声には一切の獣・声を矢ふ」(同一三九三ページ)である。
 蓮祖の師子吼の轟きには、いかなる悪口罵詈たりとも、風の前の塵に過ぎない。
 昭和五十四年四月、私が第三代会長を辞任した後、反逆者と宗門の邪僧らは、私が聖教新聞に出ることにさえ、陰湿極まる圧力をかけてきた。
 戸田先生は、よく"男のヤキモチは真っ黒け"と言われたが、本当にその通りだ。
 要するに、私の口を封じ、同志の前から私の健在の姿を消し、師弟の絆を裂こうと謀略を巡らせたのだ。
 しかし、私は、たとえ聖教が報じなくとも、あらゆる機会を通して、一人ひとりの同志に会った。一人ひとりの同志を励ました。
 この間、どれはど多くの方々から、「なぜ、聖教新聞に先生を出さないのか!」との烈々たる抗議や、慟哭の叱咤が寄せられたことか。
 その胸に迫り来る声また声にお応えして、私が再び聖教に執筆を開始したのは、昭和五十五年の夏であった。
 いまだ学会攻撃の暴風雨が吹き荒れるなか、小説『人間革命』の連載を再開し、「忘れ得ぬ同志」の新連載など、新たな言論の戦闘を開始したのだ。
 それは、翌年の秋、私が「師子は鎖を断ち切った!」と宣言し、本格的な正義の反転攻勢に打って出る序幕となったのである。

正義の師子吼こそ言論城の魂
文豪トルストイは叫び抜いた 「黙ってはいられない!」

沈黙は敗北、叫べ!

 有名な「報恩抄」には、中国の仏教史に関して、こう総括なされている。
 「天台の末流の弟子たちは、あるいは智解が及ばないゆえか、あるいは他宗の学者らを恐れるゆえか、あるいは王の権力に臆するゆえか、何も言い出せなかった。このまま打ち過ぎるならば、天台の正義も、すでに失われてしまうところであった」(御書三〇二ページ、趣意)と。
 この折、決然と立ち上がり、「法華折伏・破権門理」の教えのままに、渦巻く邪義を打ち破っていったのが、中興の祖・妙楽大師である。
 ここには、弟子が愚かで臆病にも黙ってしまえば、師匠の正義は失われてしまうという、重大な歴史の教訓が示されている。
 沈黙は敗北である。沈黙は衰亡である。
 わが聖教新聞は、正義の師子吼の城である。
 破邪顕正の精神に貫かれた創価の師弟の大音声を紙面に凝結してこそ、広宣流布の前進の大回転を起こし得ることを、断じて忘れてはならない。
     ◇
 イギリスの歴史家カーライルは断言した。
 「語る者のことばは、もしそれが真剣でまごころから出たものであれば、必ずわれわれの胸に何かひびいて来るものがあるはずだ」
 トルストイの末娘アレクサンドラには、こんなエビソードがある。それは、父トルストイが教会から破門された直後のことだ。
 彼女は、迫害と戦う父を、少しでも支え、手伝いたいと願った。十六歳の乙女には早過ぎると、周囲からは止められた。
 だが、卑劣な圧迫に対し、義憤の炎に燃え立つ彼女は、家族に内緒で、政府を風刺した詩や父の著作を自分で書き写すなどして、人びとに配布していったのである。
 そのあまりにも健気な娘の心に、父トルストイは「破顔一笑」したという。
 そこに父娘の劇があった。
 そして師弟の劇があった。

善の言葉を広げよ

 トルストイは叫んだ。、
 「もし非難と共に、非難の根拠となるべきものを示さない場合には、批判は全然無益であり、しばしば有害であり得る」
 根拠なき悪意の中傷が横行する「言論の狂い」は、最も有害な人間社会の狂いの元凶である。
 今月の十二日、青年たちと共にお迎えした、モンゴル文化詩歌アカデミーのメンドオーヨ総裁も、厳しく誠めておられた。
 「言葉を発することは重大な責任なのです。
 悪の言葉を発した人は、地獄の使者の姿をして、自然や社会の破壊を起こします。
 彼らは、いずれ悪の行為に対する罰を受けるだけでない。その子孫にまで悪い影響を及ぼすのです」
 そして、総裁は結論しておられた。
 「破壊する悪の言葉を、正しい言葉の明るいエネルギーで打ち消すことができます。
 善の言葉を広げる以外に、悪の言葉と戦う方法はありません」
 この「善の言葉」を広げゆく創価の青年の言論運動に、総裁は絶大なる期待を寄せてくださっているのだ。
     ◇
 百年前の一九〇八年、八十歳を迎えるトルストイは、弾圧された革命家たちへの死刑に反対し、論文「黙ってはいられない」を発表した。
 それは、ロシア国内の新聞はもとより、世界中で──例えばドイツでは二百紙もの新聞に掲載されたという。
 「黙ってはいられない」──これこそ、正義の声をあげゆく言論人の闘魂である。
 私はトルストイとちょうど百歳違いになる。
 大文豪が私と同年代で「黙ってはいられない」と叫んだのと同じく、後世永遠のために、私も厳然と、創価の正義を叫び残しておきたい。
 聖教新聞に連載している小説『新・人間革命』も、このほど単行本の第十八巻が発刊の運びとなった。
 第一章である「師子吼」の章では、昭和四十八年前後、聖教新聞の弟子たちを、師弟不二の第一級の言論人に育成しようと、全力で取り組んだ日々を、詳細に綴っている。
 トルストイは言った。
 「およそ迷妄は、ただ一定の期間続くだけであるが、真理はいかに攻撃され、人々から隠され、詭計(きけい)や詭弁(きべん)や遁辞(とんじ)や、その他あらゆる虚偽に取り囲まれていても、あくまで真理である」
 我らは、揺るぎない真理の上に立っているのだ。
 何を恐れようか。真実を叫び抜くのに、なんの遠慮がいろうか。
 私も一生涯、声も惜しまず叫び続ける。
 「わが師匠は、偉大な戸田先生なり!」と、恩師の正義を、創価の誇りを、全世界に堂々と師子吼しきっていく。
 それが、青春時代に誓った私の今世の人生だ。
 弟子よ、続け!
 弟子よ、叫べ!
 弟子よ、勝ちゆけ!
 トルストイの如く!
 正義の師子王の如く!

 言論の
   無限の力を
     書き綴り
  現当二世の
    勝者のペン持て

 (随時、掲載いたします)

 トルストイの言葉は『人生の道』原久一郎訳、岩波書店、「国民教育に就いて」(『トルストイ全集20』所収)八杉貞利訳、岩波書店<=現代表記に改めた>、『文読む月日』北御門二郎訳、筑摩書房。また、ビリューコフ著『大トルストイ』原久一郎訳、勁草書房、シクロフスキイ『トルストイ伝』川崎浹訳、河出書房新社、『トルストイの生涯』昭和女子大学トルストイセンター企画、人見楠郎・小波宏全・油家みゆき解説、アレクサンドラ・トルスタヤ『トルストイの思ひ出』八杉貞利・深見尚行訳、岩波書店、『トルストイ全集別巻 トルストイ研究』法橋和彦編、河出書房新社等を参照。ヘラクレイトスは「ヘラクレイトスの言葉」(『世界人生論全集1』所収)田中美知太郎訳、筑摩書房。巴金は『巴金写作生涯』大林しげる・北林雅枝訳、文芸東北新社。カーライルは『文学と人生』高村新一訳、日本教文社

随筆人間世紀の光 158 「聖教」創刊57周年に贈る〔完〕


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