核兵器は、もはや「必要悪」ではない 創価学会インタナショナル池田大作会長インタビュー

核兵器は、もはや「必要悪」ではない 創価学会インタナショナル池田大作会長インタビュー


2008/08/07 00:20:22
【国連IPS=タリフ・ディーン、8月1日】
広島、長崎市民が1945年8月の原爆の恐怖を思い出すこの時期、日本最大級の平和組織が核兵器廃絶へ向けた働きかけを強めている。

 「核兵器廃絶のための努力を復活、復興させるために、私たちは核兵器を『必要悪』とする根強い考えに挑戦する必要がある」と創価学会インタナショナル(SGI)の池田大作会長は語った。SGIは東京に本部を置くNGOで192カ国に1,200万人の会員を持つ。

 「さらには、核兵器の開発、配備、維持に莫大な金銭的、技術的、人的資源が費やされることの愚かさを人々に訴える必要がある」と仏教哲学者、著述家、平和活動家の池田氏は言う。

 1945年8月6日に広島、その3日後に長崎に原子爆弾が落とされた。

 この悲惨な出来事の記念式典を来週に控える広島の秋葉忠利市長、ならびに2020年までに核兵器の廃絶を訴える「2020ビジョン(核兵器廃絶のための緊急行動)」の平和市長会議は主要な核兵器廃絶活動家である。

 タリフ・ディーンIPS国連総局長のインタビューに応じ、池田氏第二次世界大戦から63年が経っても核戦争の恐怖を直接体験した広島と長崎の市民は声を上げ、世界に核兵器の恐ろしい脅威に警告を発し続けていると語った。

 インタビューを紹介する。

IPS:広島市は、平和市長会議と共に、2020年までに核廃絶を目指す“2020グローバル・キャンペーン”をスタートさせました。このキャンペーンに対して、日本政府はどの程度協力的であるとお考えでしょうか。またこれまで他のキャンペーンが期待されたほどの成果を上げることができなかった中で、このキャンペーンは、どれほどのインパクトを核軍縮に対して与えるとお考えでしょうか。

池田:今日、核軍縮を進める上で障害となるものは、核保有国の政治的意思の欠如もさることながら、人々の間で「核の脅威」に対する危機感が薄らいでいることが大きいのではないかと、私は痛感する一人です。「2020ビジョン」の活動は、被爆された方たちの切なる願いと「未来の世代」に対するやむにやまれぬ責任感の発露でありましょう。私ども創価学会の広島や長崎のメンバーも、原爆の恐ろしさ、残酷さ、悲惨さを語り継ぐために、粘り強く運動や出版を積み重ねてきました。

 7月の洞爺湖サミットでは、史上初めて核軍縮の必要性を明記した合意文書が採択されました。議長国を務めた日本は、核軍縮の道を開くリーダーシップを厳然として発揮していく責任があり、使命があると思います。
 
 立ち消えかけている核軍縮への機運を取り戻すためには、「核兵器は必要悪である」と考えている多くの人々の意識を変えることから始めなければなりません。さらには、核兵器の開発、配備、維持などに、巨額の資金や技術、人的資源を投入することの愚かさを、世界の “常識”としていく努力も必要です。そのためにも、「2020年ビジョン」をはじめ、さまざまな取り組みを通して人々が声をあげ続けるべきです。

IPS:過去30年において、インド、パキスタンイスラエルの3つの核保有国を世界がおとなしく受け入れたという事実から、核軍縮を達成することは到底不可能だと考える人々がいます。こうした懐疑的な人々に対し、貴殿はどのようにお答えになりますでしょうか。

池田:「不可能」と半ばあきらめていても、「このままの状態が続いて良いはずがない」と感じている人は、決して少なくないはずです。冷静に考えれば、核兵器を持つことは、お互いの疑心暗鬼を募らせるだけで、国家の安全保障上の危険は、逆に高まるだけです。

 ましてテロ組織を、核兵器で抑止することなど不可能です。今日の世界で、核抑止論に私たちの安全を委ねるのは、極めて危険な考え方です。私たちに求められているのは、「新しい現実主義」とも言うべき態度なのです。

 忘れてはならない事実があります。これまで核兵器の開発を試み、実際に保有していた国々にも、「核兵器保有は、かえって自国の安全を損ねる」と判断し、最終的に核兵器や開発計画の放棄に至った国が幾つもあるということです。南アフリカしかり、ブラジルやアルゼンチンしかり、ウクライナカザフスタンベラルーシ、そしてリビアしかりです。これらの国々は、地域の安全保障を確立する中で、「核兵器に依存する安全保障」からの脱却を果たした実例です。

 キャンベラ委員会報告書が指摘するように、核兵器から「完全に身を守るための唯一の道は、それを廃絶し、二度と作らない約束をする」しかありません。そして、一切の核分裂性物質の厳格な管理体制の確立です。これが「国家の安全保障」のみならず、「人間の安全保障」を大きく前進させる、最も〝現実的〟な選択なのです。

IPS:自国の核兵器の廃棄を拒否しているにも関わらず、米、英、仏、中、露という5つの核保有国が、核廃絶を呼びかける道徳的権利や正当な権利を持っているとお考えになりますか。

池田:私は、核軍縮、そして廃絶を進める第一義的な責任は、NPTが「核兵器国」と定めるアメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアの5カ国にあると、主張してきました。そして、停滞している米ロ間の交渉だけでなく、他の3カ国も連動した形で、核軍縮を進める国際的な枠組みと責任あるタイムテーブルの設定を求める提言を行ってきました。

 2010年に行われるNPT再検討会議は、重要です。関係各国は、今再び、“核戦争の危機を回避し、人民の安全を保障するためのあらゆる措置をとる”とするNPTの根本精神に立ち返ってもらいたい。そして、この会議で、軍縮と不拡散への確かな道筋をつけ、「核兵器に依存しない安全保障」への転換を図るべきだと、私は訴えたい。

 近年、こうした政策の転換を求める声が、アメリカのキッシンジャー国務長官やシュルツ元国務長官など、核保有国のかつての指導者の間からもあがるようになりました。その呼びかけにも見られるように、核兵器を大量保有する大国が、率先して大胆な政策転換を図ることが、袋小路に入った状況を打開するカギになるといえるでしょう。

 その意味で、カナダ・パグウォッシュ・グループが昨年提案した「北極の非核地帯化」への取り組みは、注目すべきものだと思います。なぜならその実現は、アメリカやロシアなど、核兵器国自らの“能動的”な意思と行動が前提となるからです。こうした取り組みが、やがては核兵器廃絶へ向けて、大きなステップとなることを期待するものです。
 
IPS:1981年9月、イスラエルは、疑惑がもたれているイラクの核施設への一方的な攻撃を行いました。さらに昨年9月、同国は、疑惑がもたれているシリアの設備に同様の攻撃を行いました。それが国家主権を侵害するものであり、自国もまた核武装国であるという事実にも関わらず、イスラエルはこのような一方的な攻撃を行うという法的・道徳的権限を持っているとお考えになりますか。

池田:いかなる国民にも、平和で安全に暮らす権利があります。そして、いかなる国も、それを武力ではなく、平和的手段で獲得すべきです。中東に限らず、軍事力によるハードパワーで安定がもたらされることはありません。それは“憎悪の連鎖”を生み出し、大きな禍根を残すだけです。

紛争の火種は、火で消すことはできません。火を消すことができるのは、水なのです。“憎悪の炎”に油を注ぐのではなくして、“対話の水嵩”を増すことで火を鎮めなくてはならないのです。

 この問題の解決には、対話を通じて、地域全体の安定化、更には「中東の非核化」を実現していく以外に道はないと思います。

翻訳=IPS Japan武原真一