小説「新・人間革命」 宝冠51 9月12日

午後一時半、ソ連対文連、モスクワ大学が主催する「さよならパーティー」に、山本伸一たち、訪ソ団一行が招かれて出席した。

 会場は、森と池に囲まれた、モスクワ郊外のレストランであった。

 まず、主催者を代表して、モスクワ大学のトローピン副総長があいさつした。

 「楽しい思い出を刻みつつ、会長と共に過ごした日々は終わりに近づき、遂に、お別れのパーティーとなってしまいました。

 会長一行の今回の訪問によって、ソ日両国の友好と協力は一段と進みました。大成功の第二次訪ソであったと確信します。

 『尊敬する皆さん!』と呼びかけ、あいさつをすることも、これが最後になってしまいましたが、私たちは、このたびの皆さんの訪ソを、永遠に忘れることはないでしょう。

 なぜなら、未来にわたる友情の種子が、見事に芽を出したからです」

 そして、新たな旅立ちの乾杯となった。

 その後も、あいさつは続いた。訪ソ団のメンバーは、通訳を務めたモスクワ大学のストリジャック主任講師をはじめ、皆の献身的な尽力に対して、口々に御礼を述べた。

 伸一も、あいさつに立った。彼は、関係者に、深く、丁重に感謝の意を表したあと、今後の友好への決意を力強く語り始めた。

 「よく『日本人は熱しやすく冷めやすい』と言われます。国と国との友好にあっても、確かにそうした傾向があることを、日本人の一人として私も残念に思っております。

 その場だけを取り繕おうとする発言、約束は、いくらでもできます。しかし、それでは本当の友好は確立できないでしょう。

 『建設は死闘』です。真の友好の道を開くのは、その決意と行動です」

 伸一は、一部の政治家たちの、口先だけの実践なき“親善”や“友好”を憂えていた。いや、怒りさえ覚えていた。

 「ただ迅速果敢な行動のみがすべてを決定する」(注)とは、カエサル(英語名・シーザー)の至言である。