2008年9月13日付 聖教新聞 トルストイ生誕180周年記念行事での池田SGI(創価学会インタナショナル)会長のメッセージ

2008年9月13日付 聖教新聞
トルストイ生誕180周年記念行事での
池田SGI(創価学会インタナショナル)会長のメッセージ


今こそ人間と文化の交流を!
わが平和旅を支えたトルストイの叫び
「なすべきことをなせ、何があろうとも」

 一、「人間精神の王者の中の大王者」にして「世界文学の宝の中の至宝」たる、大文豪レフ・トルストイ翁の生誕180周年記念式典を心よりお慶び申し上げます。
 なかんずく「トルストイ屋敷博物館」の主催であることに、深甚の意義を感じ取るのは、私一人ではないでありましょう。
 青春時代より、計り知れない精神の啓発を受けた大文豪に、最大の感謝を込めて、謹んでお祝いのメッセージを贈らせていただきます。

 "導きの北極星"
 一、「一つの生涯をかけた仕事、そしてつまるところ一つの全き人生ほどに強い作用を与え、そしてすべての人間を同じ気持に引きずりこむものはない」(堀内明訳「トルストイ」、『ツヴァイク全集10』所収、みすず書房
 大トルストイ翁は、1894年3月23日の日記に綴りました。
 この言葉通り、全魂を込めて世に送り出した数々の名作と、生命を燃焼させて描かれた全き"人生の軌跡"は、逝去から1世紀の時を経てもなお、世界の幾多の人々の心を捉えて離すことはありません。
 フランスの行動する作家ロマン・ロランやインドの非暴力の父マハトマ・ガンジー、平和探求の大科学者アインシュタイン博士やアメリカの公民権連動の指導者マーティン・ルーサー.キング博士、近くは人権の闘士マンデラ南アフリカ前大統領にいたるまで、「戦争と暴力の20世紀」の激流に抗して戦い続けた精神の巨人たちが、"導きの北極星"として仰ぎ見つめたのも、トルストイ翁にほかなりませんでした。
 かつてロランは「われわれがトルストイから飲んだ生命は、われわれの生命となり、その生命は今度はわれわれによって、次の世代の生命となり、またその次の世代、次の世代へと引き継がれてゆくのです」(蛯原徳夫訳「伯爵様。ロランとトルストイ」、『ロマン・ロラン全集39』所収、みすず書房)と予見しました。
 まさに、その不滅なる精神の命脈は、今や21世紀の人類を包む平和の万波となって、大きく広がっております。

 人のための灯は自分をも照らす
 一、現在、この偉大なる伝統をさらに深く、さらに広く発展させゆくために、日夜、著作と向き合い、"魂の対話"を重ねながら、先頭に立って行動しておられるのが、ウラジーミル・トルストイ館長なのであります。
 光栄にも、館長を本年4月、わが創価大学の入学式にお迎えすることができました。大文豪の直系の後継者との出会いは、若き幾千の学生たちの生命に、黄金の歴史となって鮮烈に刻まれました。
 わが創価大学の記念講堂には、人類の精神の大英雄であるトルストイ翁の魂を、永遠に世界の青年に継承すべく、威風も堂々たるトルストイ翁のブロンズ像を設置しております。
 「トルストイの人生を語るだけではなく、トルストイが実現しようとしていた構想を継承し、行動していきたい」──若き館長は、この大情熱を燃え上がらせて、国際的なジャーナリストとしての活躍の大舞台から、トルストイ生誕の大地に舞い戻られました。
 人類の遺産の博物館を厳然と護り抜きながら、尊き使命を果たされゆく崇高なる献身に、私は深い深い感銘を禁じ得ないのであります。
 トルストイ翁は呼びかけました。
 「個人的な幸福への希求が人生であると考える人間は、世界が、互いを害する者同士の不条理な争いの場のように見えてしまう。
 しかし、他者の幸福を求めることがわが人生であると考えたならば、まったく別の世界が見えてくる」と。
 そして、その目指すべき新世界とは、「互いのために尽くし合う世界であり、それなしでは、世界が存続しえないものである」と結論しております。
 なんと気高き平和と共生の大宣言でありましょうか。
 ここにこそ、次の100年、いな、新しき1000年の未来へ、人類が進むべき永遠の指標が輝いていると確信してやみません。

トルストイ 清らかな思想と善の行動で築かれた"精神の城"は不滅

 大乗仏教においても、「自他ともに、智慧と慈悲をもっていることが、真実の『喜び』である」と説かれております。
 さらにまた、「人のために灯をともせば、その光は、人々を照らすと同時に、自分の前も明るくする」という道理が示されています。

 「世界の人々を引き寄せる中心点」
 一、生誕180周年のこの時、世界を照らすトルストイ翁の魂の大光は、今再び、生地ヤースナヤ・ポリャーナから赫々と放たれる時を迎えております。その豊かな大自然で大文豪の五感をたえず触発し、不朽の名作の"創造のゆりかご"となってきた、このヤースナヤ・ポリャーナが、どれほど大切な場所であるか。
 それは、ドイツの作家トーマス・マンが「世界中のひとびとを引き寄せる渦巻の心、中心点」(山崎章甫・高橋重臣訳『ゲーテトルストイ岩波文庫)と讃えた通り、人類の憧れの天地であり、永遠の希望の宝土なのであります。
 今回、ここヤースナヤ・ポリャーナの地で行われる記念式典に、世界192カ国・地域のSGIを代表して祝賀の意を表するとともに、大成功を心より念願いたします。
 昨日は、記念式典に先駆けて、L・N・トルストイ記念トゥーラ国立教育大学で、重要な学術の集いが行われました。
 思えば、この9月8日は、1974年、私が初めて貴国を訪問させていただいた日でもありました。
 日ソの溝は深く、さらに米ソ対立に加え、中ソの対立が激しくなる当時にあって私は、「何としても人間の交流、文化の交流、そして平和の道を開きたい」との信念で、モスクワの地を踏みました。
 その胸中に去来していたのは、トルストイ翁が亡くなる前に最後に日記に記した、次の言葉でありました。
 「なすべきことをなせ、何があろうとも......」
 今も、その実情はまったく変わりません。敬愛してやまない文豪の名を冠したトゥーラ国立教育大学から、栄えある名誉教授称号をお受けした責任を全うするためにも、全世界の青年に、トルストイ翁の思想と行動を語り伝えゆく決心です。
 そして、トルストイ翁が目指した世界の平和の前進と教育文化の興隆のために、さらに全力を尽くしてまいる所存であります。
 結びに、「清らかな思想と善の行動で築いた精神の城は永遠に不滅である」とのトルストイ翁の言葉を、貴トルストイ屋敷博物館に謹んで捧げ、私のメッセージとさせていただきます。

トルストイ生誕180周年記念行事での
池田SGI会長のメッセージ〔完〕