【第2回】 出会いの共鳴 ㊦   2010-9-18

池田 恐縮の限りです。また、壮大な創作のスケールに感嘆します。ギリシャ神話に登場するプロメテウスは、独裁者ゼウスの怒りを買い、岩に鎖で縛られる。
 なぜか──人類に「火」を与え、「言葉」を与え、「音楽」を与え、「文化」を与えたからです。民衆が賢く、強くなることを、権力者は嫌います。支配しにくくなるからです。
 日蓮大聖人は濁世の様相を「民の力よわ(弱)し」(御書1595㌻)と喝破されました。大事なことは民衆が強くなることです。
 力をもつことです。これが時代を変えていく鍵です。
 ジャズは魂の叫びです。勇気を呼び起こし、人間を強くします。生命を躍動させます。民衆を連帯させます。その次元で、仏法と深く響き合うのです。
ショーター 池田先生が、アメリカ芸術部のメンバーと語り合ってくださったことも、私は忘れません(2002年5月)。
 そこには、ハービーをはじめ、俳優のパトリック・ダフィー、フルート奏者のネスター・トーレス、ギタリストのラリー・コリエル、トランペッターのシュンゾウ・オオノ、スパニッシュダンサーのオリベラ夫妻など、皆、同席していました。
 あの時、先生は私たちに「信頼」の大切さを教えてくださったのです。
 「自分と一緒に仕事をする人たちを信頼し、互いを信頼し合うことが大切である」──そう言われました。
ハンコック そうです。ICAPはあの時、先生のもとから前進を開始したのです。
池田 仲の良い、呼吸の合った結合でしたね。皆、超一流の実力と人格を併せ持った方々です。創大記念講堂での本部幹部会の時でした。本当に美事な演奏をしてくれました。大病を乗り越え、夫人とともに再び舞台に立たれたオリベラさんの「勝利の舞」も、皆の命に鮮烈に刻まれています。
ショーター 先生は重ねて「皆、急ぐ必要はないんだよ。結果ばかり追わずに、『心こそ大切』で、信頼し合っていきなさい」と言われました。
ハンコック 先生が、その点を強調されたことを、私もよく覚えています。池田先生がおっしゃるように、自己を信頼し、他の人々を信頼できるようになることが大切だと思います。
 私は、ジャズの演奏の中でも、また即興の瞬間でも、この「信頼」が重要な役割を果たしていることを痛感しています。相手を「信頼」できなければ、とうてい、ステージに立つことなどできませんから(笑い)。
 あの時、先生は奥様に、「これで全部、必要なことは言ったかな? 言い残したことはないね」と念を押されました。奥様は「いいえ、何にもありません。もう十分言われましたよ」と微笑まれました(笑い)。
池田 皆、世界の最高峰の芸術家です。皆さんには、本当のことを言っておきたかった。私の大切な大切な友人ですから。宝の兄弟ですから。
ハンコック これまでの日本訪問の経験に照らして、私は、(本部幹部会での)先生との会見は一定の形式に沿ったものになるだろうと考えていました。しかし、勇気を奮ってあえて申し上げるならば、先生は、そうした形式には、まったくとらわれない方といえましょう。先生の自由闊達さ。人間的な温かみ。先生はどこか一国の文化には縛られません。そしてどんな挑戦目標も、全力で成し遂げておられます。その行動はパイオニア・スピリット(開拓者精神)に満ちています。
 そこで引き合いに出したいのが、形式にとらわれないアメリカ人の生き方です。時には度を過ぎた規則破りをすることもありますが……(笑い)。
これがアメリカ人の特質であり、パイオニア・スピリットです。
 その特質がどこから来るのか──アメリカには広大な国土があります。そして、もちろん先住民もおります。とともに国民のほとんどが、移民か移民の子孫たちです。私たちの祖先は、地球の全域からきているのです。
池田 私はアメリカの人々が大好きです。明るくて、自由で、陽気でユーモアがあり、親切で、よく働く。私は、「よきアメリカ人」即「よき世界市民」に、一つの理想的な人間像を見出しています。そして、自分自身もまた、そうありたいと願ってきました。
 初代会長の牧口常三郎先生も、いち早くアメリカに脈打つ人間主義に注目しておられた。
 1903年に発刊された『人生地理学』で、人類はもはや軍事や政治、経済の競争ではなく、「人道的竸争」へと進むべきであると展望されていました。個人にあっても、国際関係にあっても、その目的を、利己主義にのみおかず、自己とともに他の生活をも保護し、増進させていく。他のために行動し、他を益しつつ、自己も益する方法を選ぶことを提唱されたのです。
 そして牧口先生がその人道の競争の担い手として期待していたのは、アメリカでした。先生は将来の文明の統合・結合の地は、アメリカ合衆国であると展望したのです。
 そこで育まれたジャズは、まさしく偉大な世界市民の魂の音楽です。
 創立80周年の佳節を彩る、新たなアメリカ・ルネサンスの開拓者との語らいを、牧口先生も喜び見守ってくださっていることでしょう。