激闘 6 2014年3月27日

山本伸一が、「教育」を「教」と「育」に分け、特に「育てる」ことに力を注ごうと考えた背景には、彼の独自の教育観があった。
彼が知る限り、日本の教育は、知識、技術を教えることに力点が置かれていると言わざるを得なかった。
大事なことは、習得した知識や技術を、自身の幸福のため、社会のため
に生かしていける創造的な能力、つまり独創性を培っていくことである。
それには、上から、一方的に知識や技術を与え、「教える」ことより、一人ひとりがもっている能力を引き出し、「育てる」ことが、より大切になる。
そして、そのためには、教師と学生・生徒の、人間対人間の「触発」が不可欠であり、全人格的な関わりが求められる。
伸一は言った。
「私は、教育の主軸は、『教』から『育』に移していかなければ、豊かな創造性は培えないと思っています。
この『人を育てる』作業にこそ、時代の再生と、未来の建設があると
考えています。
もし、意見があれば、言ってください」
同じ記者が質問した。
「確かに私も、教育のなかでも『育てる』ことに力点を置く必要性を感じます。
ところで、現代は青年たちの価値観が多様化し、指導も一様にはいかないのではないかと思います。
会長が青年たちに、特に強く訴えておられるのは、どんなことでしょうか」
「鋭い質問です。私は、青年には、生き方の根本的な原理といいますか、人生の基本となる考え方を訴えるようにしています。
いわば、その原理に則って、各人が、それぞれの具体的な問題について熟慮し、自ら結論を出してもらいたいと思っているからです。
そのうえで、私が、強調していることの一つは、『苦難を避けるな。苦労しなさい。うんと悩みなさい』ということです」
文豪ユゴーは、こう綴っている。
「あらゆる苦悩をだきしめることから信念がほとばしりでる」(注)