【第5回】 昆虫学者 ファーブル   (2014.8.1)

命は一番の宝
 みなさん、夏休みを元気にすごしていますか?
 健康で、無事故で、楽しい思い出を、いっぱいつくってください!
 夏になると、セミの元気な声がひびきますね。
 「ミーンミンミンミー」
 「ジージー」「ツクツクホーシ」
 「カナカナカナ」
 小さな体から大きな声を出して、一生けんめいに鳴いています。
 セミがどこから来るのか、どうやって大きくなったか、みなさんは考えたことがありますか。
 セミのことを調べに調べて、暗い地下で何年間も働いてから、やっと明るい太陽の下《もと》で短い幸せを歌っているんだと、セミの気持ちを思いやった人がいます。
 フランスの偉人な昆虫学者アンリ・ファーブルです。
 今回は、100年以上も世界中で読まれている『昆虫記』の作者ファーブルのことを学んでいきましょう!
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 ファーブルは、1823年、いなかの小さな村で生まれました。
 両親と弟の4人家族。まずしいくらしでしたが、家のまわりには、ゆたかな自然がありました。野原や小川が遊び場で、虫や鳥など、たくさんの生き物にかこまれ、ファーブル少年はすくすくと成長しました。
 中学校では、しんけんに勉強して、成績はクラスで一番になりました。しかし、お父さんの仕事がうまくいかず、学校に通えなくなり、働くことになってしまいました。朝から晩まで働いて、くたくたになりました。
 そんなファーブルの心の支えとなった友だちがいました。
 それは、小さなころから大好きだった虫たちです。見たことのない虫を見つけると、心がワクワク、ドキドキしました。
 ファーブルは、小さな虫の「命」に大きな「希望」を見いだしました。そして苦労に負けず、学び続けていったのです。やがて、小学校の先生になりました。
 のちにファーブルは、「歩きつづけさえすれば、行きつくところに行けるのだ。そして、たえず歩きさえすれば、力が自然にわいてくる」と語っています。
 ねばり強く努力を続ければ、必ず自分のなかに眠っている力を出せるようになるんだね。
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 ファーブルが本格的に昆虫の研究をするきっかけになったのは、野外授業の時でした。子どもたちから、ハチが巣のなかにあまいミツをためていることを教えられたのです。
 ファーブルはもっと知りたいと思い、高価な昆虫の本を思い切って買いました。その本を読んだ感動が、昆虫学者のとびらを開いたのです。
 それから、中学校や高校で理科を教えながら、仕事の合間をぬって昆虫の研究をするようになりました。
 そうして『昆虫記』の第1巻ができたのは、ファーブルが55歳の時です。そこから、さらに約30年をかけて全10巻を発刊しました。人生のすべてをかけて生みだされた本なのです。
 『昆虫記』には、1500種ほどの虫たちや動植物が登場します。私も以前から、少年少女のみなさんにすすめてきた本です。
 この本には、むずかしい言葉は使われていません。だれにも分かりやすく、親しみやすい内容にという思いで書かれたからです。また、だからこそ、世界中に多くの読者を広げることができたのです。
 やがてフランスでは、大統領も大臣も、この偉人ファーブルのもとを訪れ、最敬礼して功労に感謝しました。
 じつは、日本の高名な学者が、この歴史を通して、私たち創価学会の初代会長である牧口常三郎先生のことを、「国の誇り」とたたえました。
 小学校の先生としてがんばりながら『昆虫記』を書いたファーブルをフランスが国をあげてたたえたように、同じく小学校の先生として立派な本『創価教育学体系』を書いた牧口先生のことを、日本は大事にすべきであるといわれたのです。
 ところが、当時の日本は、仏法を広めて「命の尊さ」を説く牧口先生を大事にするどころか、戦争をおし進める国の考えに反対した人物として、牢獄で死なせたのです。そのことを、牧口先生の弟子である第2代会長の戸田城聖先生は、いつも怒りで体をふるわせて語られていました。
 今年は牧口先生か亡くなられて70年になります。牧口先生の心を受けついで命の尊さを訴える創価学会が、世界から信頼される時代になっています。
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 ファーブルは、「命の尊さ」をよく知っていました。
 観察が終わると、虫の大好きなものを与えてから「よくいろいろなことを教えてくれたね、さようなら」と詰りかけ、自然にもどしたというのです。
 『昆虫記』に、こうあります。
 「一番ちっぽけなものの生命《せいめい》にしても、それは尊いものだ」
 この『昆虫記』からは、虫たちへの愛情や、命の力への驚きが伝わってきます。
 ──ミノムシのお母さんは、タマゴを産むと、自分が着ていた綿毛の服をぬぎます。その服でタマゴをくるみ、温めるのです。さらに子どもたちのために、葉っぱや、くきで作った家をあけわたし、子を守るようにして亡くなります。
 また、ホタルはむかしの人に「おしりにランプをもっている虫」と呼ばれていました。ある種るいのホタルのランプは、体から切りはなされても光り続けます       * * *
 ホタルといえば、私が創立した関西創価学園創価大学では、長年にわたり、ホタルを大事に育て、命のすばらしさを、友だちや地域の人と学びあっています。
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 日蓮大聖人は「命というものは一切の財の中で第一の財である」(御書1596㌻、意味)といわれています。
 命は、私たち人間の一人一人も、また、どんな小さな虫たちも、もっている最高の宝物です。
 ミノムシのお母さんも、命をかけて子どもを守っています。
 みなさんも、お母さんがどれほど、自分のことを大事に守ってくれているか、思いおこしてみてください。
 みんな、かけがえのない命なのです。
 ホタルのランプが光り続けたように、どんな困難のなかでも、自分を光り輝かす力を、みなさんもまた、もっています。
 みんな、すばらしい命なのです。
 もちろん、悪いことをする虫もいるし、虫が苦手な人や、きらいな人もいるでしょう。ただ、たとえば、花粉を運ぶミツバチがいなくなったら、多くの植物が、地上から姿を消してしまうといわれています。植物がなくなれば酸素がなくなって、私たち人間も生きていけなくなります。
 小さな虫であっても、大きな役目をはたしています。
 みんな、命はつながっているのです。
 だからこそ、まわりのを大切にする人は、自分の命を大切にできる人です。そして、命は、みんないっしよに生きていくのです。
 この夏休み、みなさんも近くの公園や野原や水辺に行ったり、家族で旅行に行ったりした時に、たくさんの命とふれってください。そして、もっともっと元気いっぱい、自分の夢や目標に、一生けんめい挑戦してください。
 一匹の虫から大いなる希望を生みだしたファーブルのように1
ファーブルの言葉は、G・V・ルグロ著『ファーブルの生涯』平野威馬雄訳(筑摩書房)、『完訳ファーブル昆虫記(十)』山田吉彦林達夫訳(岩波書店)から。参考文献は、砂田弘著『おもしろくてやくにたつ子どもの伝記19 ファーブル』(ポプラ社)、『ファーブル昆虫記 ここがスゴイぞ!虫のふしぎ』舟崎克彦訳(集英社)、『ファーブルの昆虫記』中村浩・江口清訳(講談社)。