小説「新・人間革命」 力走59 2016年年6月2日
時代の激流は、万次郎を歴史の表舞台に押し上げていった。
時代が彼の力を必要としていたのだ。
土佐で万次郎は士分を与えられ、藩校「教授館」で教えることになった。
さらに、江戸に呼ばれ、軍艦教授所の教授を務める一方、翻訳なども行っている。
だが、そんな万次郎に、嫉妬する者も後を絶たなかった。彼が、自分たちにはない優れた能力、技量をもっていることは、皆、わかっていた。
それでも、武士ではない、半農半漁の貧しい家の子が重用されていったことへの、感情的な反発があったのであろう。
自分に力もなく、立身出世や保身に執着する者ほど、胸中で妬みの炎を燃やす。
大業を成そうとする英傑は、嫉妬の礫を覚悟しなければならない。
人間は、ひとたび嫉妬に心が冒されると、憎悪が燃え上がり、全体の目的や理想を成就することを忘れ、その人物を攻撃、排斥することが目的となってしまう。
そして、さまざまな理由を探し、奸策を用いて、追い落としに躍起となる。
国に限らず、いかなる組織、団体にあっても、前進、発展を阻むものは、人間の心に巣くう、この嫉妬の心である。
明治に入ると、政府から開成学校(東京大学の前身)の英語教授に任命されている。
山本伸一は、万次郎の生涯に思いを馳せながら、同行の幹部に語った。
「万次郎は周囲の嫉妬に苦心したが、信心の世界にあっても同様だよ。
魔は、広宣流布を阻むために、外からだけでなく、学会の中でも、互いの嫉妬心を駆り立て、団結させまいとする。
大事なことは、その心を超克する、人間革命の戦いだ」
小説『新・人間革命』語句の解説
還運動を推進し、後に、逓信・農商務大臣を務める。