小説「新・人間革命」 清新60 2016年年8月24日

山本伸一藤根ユキを励ましてから、三年余がたっていた。
伸一は今、ふくよかで明るい表情の彼女を見て言った。
藤根さん。元気になってよかったね」
「はい! 実は、昨年、指導部になり、今は本部の指導長をしております」
「そう。無理をしないで、体を大事にしながら、余裕をもって活動に励んでください」
「それが、本部長をしていた時よりも忙しくなってしまいました。毎日、個人指導で予定はぎっしり詰まっています。
でも、頼りにされていると思うと、嬉しくって……」
「すごいことです。年配になって、ライン役職を離れても忙しいということは、その組織が団結し、仲が良いという証拠なんです。
それが私の理想なんです。嬉しいことだ。
また、あなたが広宣流布のために、なんでもやらせてもらおうとの思いで、後輩を守り、積極的に活動に取り組んでいるからです。あなたの人柄ですよ。
いつも文句ばかり言って動こうとしない先輩であれば、誰も相手にしなくなります。
つまり、ラインの正役職を外れたあとの姿こそが大事なんです。誰からも頼りにされず、声もかけられないのでは寂しいものです。
組織の立場は、みんな変わっていきます。
しかし、広宣流布のために働こうという信心の姿勢は、変わってはいけません」
藤根は、大きく頷きながら尋ねた。
「でも、山本先生は、ずっと学会の会長でいてくださいますよね」
「いや、私は、会長を辞めようかとも考えている。
今や、学会本部には、世界中から大勢の同志が来る。
海外の要人との対応も大事になっています。
だから、会長は譲って、世界のために働こうと思っているんです」
藤根は顔色を変えた。耳を疑った。
「先生、困ります。本当に困ります」
会合中であることも忘れ、必死に訴えた。
伸一は、「わかったよ」と、微笑を浮かべた。三カ月後、この言葉が現実のものになるとは、藤根は想像さえできなかった。