小説「新・人間革命」源流 15 2016年9月19日

山本伸一は、メヘロトラ副総長のあいさつを聴きながら思った。
現在のインドは、まだ発展途上にあるかもしれない。
しかし、人びとの目は輝き、言葉を交わせば笑みの花が咲く――それは、民衆の心の豊かさを示してはいないか。
今後、インドも急速に工業化、現代化が進むにちがいない。
この激流は、発展をもたらす半面、ますます貧富の差を広げ、また、人びとの心の豊かさをも奪い流していくことになりかねない。
それをいかに回避するかが、これからの大きなテーマとなろう。
そして、そのために必要不可欠なものが、仏法という生命の哲理なのだ
ここで副総長は、図書贈呈の意義に触れ、贈書を「価値ある贈り物」と表現し、感謝の思いを語ると、一段と声を強めた。
「しかし、贈書もさることながら、山本先生が、この大学を訪れてくれたという事実そのものに、感謝を覚えるものであります」
行動にこそ、人間の真実が表れる。
直接、現地に足を運び、出会いをつくることから、友情は芽生え、その積み重ねのなかで、強い信義の絆が結ばれていく。
次いで、伸一のあいさつとなった。
彼は、デリー大学との教育交流は、日本とインドの平和・文化交流の幕を開くために念願していたことであり、今回の贈書が少しでも皆さんのお役に立ち、両国の相互交流と発展に寄与するものになれば、これほどの喜びはないと述べ、自身の信条を訴えた。
「教育こそ、二十一世紀の平和社会を建設する源泉であります。
ゆえに教育・文化の交流には、政治・経済の次元以上に力を注がねばならない――これが私の信念であります。
私が創立した創価大学のモットーのなかに、『新しき大文化建設の揺籃たれ』『人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ』とあります。
本日を起点として、デリー大学との交流の深化を図り、日印間に崩れざる文化と平和の懸け橋を築いていきたいと申し上げ、あいさつといたします」