小説「新・人間革命」源流 22 2016年9月27日

山本伸一はデサイ首相に、「ぜひ、日本にお迎えしたい」と語った。もし、訪日が実現すれば四度目の訪問となる。
「日本に行きたいとは思っていますが、具体的な計画はありません。
私はむしろ、日本の首相にインドを訪問していただきたい」
さらに、日本にいちばん期待したいことは何かを尋ねると、即座に答えが返ってきた。
「フレンドシップ(友情)です。友情の絆さえ強まれば、あとは自然にさまざまなことができるものです。
世界平和に貢献していく力ともなります。
私たちは、日本から多くのことを学びたいと思っています。
日本人は非常に規律正しく勤勉であり、愛国心に富んでいます。
互いに友人になることこそ、すべての出発点です」
伸一は嬉しかった。友情の大切さは、彼が主張し続けてきたことであったからだ。
また、首相は、「真理を追究するという姿勢を政治に取り入れたい。
これを政治の最大のテーマとしています」と語った。
そして未来を仰ぐように目を細め、言葉をついだ。
「世界は軍縮が実現されるならば、すべての国の人たちが友人になり、仲良くなることができます。
さらに、世界政府ができ、すべての国が一致協力してやっていける時代が来ることを、私は念願しているんです」
約一時間にわたる会談は瞬く間に過ぎた。最後に伸一が真心の応対に深謝すると、首相は一冊の本を贈った。
『バガバッド・ギーター』(神の詩)を自ら解説した著書『私のギーター観』であった。
『バガバッド・ギーター』は古代インドの叙事詩マハーバーラタ」の一部であり、インドの聖典とされ、ガンジーの思想の支えにもなったといわれる。
この書の冒頭部分には、「幸福は、心の平和と歓びを得ることにある。
それは、自分のなすことに充実感をもつことから生まれる」(注)とある。
深い哲学性にあふれた言葉である。デサイ首相との会談は、精神の大国・インドを探訪する旅の幕開けにふさわしい語らいとなった。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 Morarji Desai著『A View of THE GITA』S.CHAND & COMPANY LTD(英語)