小説「新・人間革命」 大山 二十三 2017年1月28日

四月九日は、創価大学の第九回入学式であった。

快晴の空のもと、正午から始まった式典に出席した創立者山本伸一は、人生における学問の意味に触れ、謙虚な学問探究の姿勢を貫いて、悔いなき四年間をとスピーチし、若き知性の前途を祝福した。

そのなかで彼は、ドイツの哲学者ジンメルの言葉を紹介した。

「誇り高い者は自分の価値の絶対的な高さだけを気にかけ、虚栄心の強い者は自分の価値の相対的な高さだけを気にかける」(注)

人間は、一人ひとりが尊厳無比なる固有の絶対的価値をもった存在であり、皆に固有の使命がある。
その誇りをもち、自己の使命に生き抜くなかに、人生の本当の幸せも醍醐味もある。

ゆえに、人生の真実の勝利は、社会の相対的な地位や立場などが決するものではないことを、伸一は訴えたのである。

「諸君の一生の価値は、誰が決めるのでもない。ほかならぬ諸君自身が決めるのであります。
他人と自分を比べて、相対次元で一喜一憂してみたり、世間の評価や流行現象のみを追ってみたりしても、詮ずるところは、それらは、いつかは、うた

かたのように消え去ってしまうものであります」

そして、他に依存した生き方ではなく、自ら決めた信念の道を貫いてほしいと念願したのである。

入学式終了後、伸一は、来賓との懇談会に臨み、午後七時、大学の正面玄関ロビーに向かった。

別科(日本語研修課程)に入学する中国からの四人の留学生が到着したのだ。

「わが創価大学へようこそ! 創立者として、心から歓迎いたします。

また、私の創った大学で学んでくださることに、深く感謝申し上げます」

創価大学が、中国から第一期となる留学生六人を迎えたのは、一九七五年(昭和五十年)四月のことである。
日中国交正常化後、初めての日本への国費留学生であった。以来、第三期となる。
既に一期生たちは、両国友好の檜舞台に立って活躍していた。
 

小説『新・人間革命』の引用文献

注 「断想」(『ジンメル著作集11』所収)土肥美夫訳、白水社