【第5回】 「科学の時代」をリード      (2017年9月1日)

「生命の世紀」の開拓者《パイオニア》たれ!
 
──先月、創価大学で「全国未来部夏季研修会」「首都圏中等部夏季研修会」が行われました。
未来部の研修会では、さまざまな分野で活躍する先輩方が講演する「ドリームブース」が大好評でした。
池田先生 うれしいね。忙しい中、後輩のために駆け付けてくれた先輩の皆さん方に、心から感謝します。
本当にありがとう! 宇宙開発に携わる創大出身の先輩も来てくれたんだね。
 
──はい。未来部メンバーは、宇宙科学の最前線を走る先輩の講義に、胸を膨らませていました。
池田先生 ロマンが光っているね。私も、恩師・戸田城聖先生から天文学を教わりました。
忘れ得ぬ「戸田大学」での一こまです。先生は万般の学問を個人教授してくださり、教材も当時の最新のものが選ぱれました。
『新科学大系』というシリーズもそうです。新刊が出た数日後に、早朝の講義で取り上げられたこともありました。
〝これからの指導者は、何でも知っておかなければならない。学会は時代の最先端をいくのだ〟との先生の訓練でした。
科学は日進月歩です。新たな発見や技術が次々と誕生していきます。
だからこそ皆さんも探究心を燃やし、いつも生き生きと学んで、時代をリードする力をつけていただきたいのです。
アメリ創価大学では2020年を目指し、新しい校舎である「科学棟」の建設と、新たな集中コースである「生命科学」などの開設へ、本格的な準備が始まっています。
生命の可能性を開花させゆく科学の新時代へ、哲学と人格を兼ね備えた世界市民を育む、希望の一歩です。
 
──今回のテーマは「科学」です。現代では、科学技術と無関係の職業はないといえます。
人工知能AI)の発達が仕事にどう影響していくかなども、注目されています。
池田先生 「科学」と聞くと、難解そうな数式や専門用語が浮かんでくるかもしれない。
しかし、私たちの周りは科学の果実であふれています。
身近なスマートフォンも、そうでしょう。昔なら考えられなかったようなことが、手のひらで、簡単にできる時代になりました。
車の自動運転が発達して交通事故がなくなることも期待されています。
夢物語だった月旅行や海底探検が、簡単にできる時代も来るでしょう。
すでに、コンピューターの世界を通して、その場にいながらにして地球のどこにでも行ったような体験ができるようになってきました。目を見張る未来が、皆さんの前に広がっているのです。
 
──世界的な環境学者のヴァイツゼッカー博士が、池田先生をとの対談で、地球的な課題を克服する科学技術の役割を強調されていました。
池田先生 私は、世界の各分野の科学者と語り合うことを大切にしてきました。
戸田先生から学んだ時のように、科学の最先端や基本的な原理を、どんどん質問しました。
聖教新聞を通して、多くの人に分かりやすく伝えられるようにと心掛けてきました。
民衆が科学の知識を深めることが、平和の力になるからです。
科学の力、科学の可能性は本当に大きい。
とともに、科学には〝両面〟があります。
スマートフォンだって、あらゆる人とつながりやすくなった一方で、誰かを簡単に傷つけてしまう場合がある。
科学の発展が、そのまま人間の「幸福」につながるわけではない。
良い影響を及ぼすこともあれば、悪い影響を与える存在にもなるのです。
その最悪の例が、核兵器です。
多くの尊い生命を一瞬のうちに奪い、一人一人が幸福な人生を歩むために積み重ねてきた努力も、皆で長い時間をかけて育んできた貴重な文化や歴史の宝も、全て破壊してしまう
──この理不尽さに、核兵器の残酷な非人道性が表れています。
科学の進歩が行き着いた先に、なぜこのような「人間の生存を否定する悪魔の兵器」を生み出してしまったのか。
歴史学者のトインビー博士は、私との対談集の最終章で、科学技術の水準が急速に上昇してきたのに、人間の心は少しも向上してこなかったことを指摘されました。
大事なのは人間の心です。その心が、どこに向いているかです。
科学が進歩すればするほど、それを扱う人間自身も進歩しなければならない。
心を鍛え、人間性を磨かなければならない。
そうでないと、協調は排他へ、創造は破壊へと、いとも簡単に転じてしまう──これが20世紀の教訓だったといえるでしょう。
科学の力を、人間の幸福のために正しく位置づけ、リードする哲学が今こそ求められています。
この時代の要請に応えゆくのは、仏法の生命尊厳の哲学を若くして実践する未来部の皆さんであると、私は声を大にして宣言したいのです。
 
──20世紀は「科学の爆発」の時代だと強調したのは、世界的な物理学者・平和活動家であり、池田先生と対談集を発刊した、ロートブラット博士です。
「私と池田会長は、異なる立場から出発して、同じ結諭に達しました」と博士が言われていたのが印象的でした。
池田先生 博士と私が達した結論もまた〝一切の根本は人間である〟〝人間の心の変革に、平和を築く鍵がある〟という点です。
博士は、核兵器廃絶を目指す科学者の組織「パグウォッシュ会議」で、初代事務局長、会長などの要職を歴任した〝行動する科学者〟です。
1908年、ポーランドワルシャワで生まれ、戦時下の貧困に苦しむ中、〝科学を通して戦争のない世界を創ろう〟と、夢を広げました。学費を払う余裕がないため、「高等学校に行けないならば、自分で勉強すればよい」と、15歳の時から、昼は電気技師として働き、夜は本を読んで猛勉強を重ねました。
御聖訓には、「鉄《くろがね》は炎打《きたいう》てば剣《つるぎ》となる」(御書958㌻)と仰せです。
偉大な人は皆、どんな逆境にあっても、くじけない。
それを成長へのバネとして、徹して学び鍛えて、自分を磨き上げていくのです。
 
──博士は、アメリカの原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」に参加した一人ですね。
ヒトラーが先に原爆を開発すれば恐ろしいことになる〟というのが参加を決めた理由でした。
しかし、ナチスが原爆を製造していないことを知ると、完成前に離脱しました。
池田先生 平和の信念の選択をした博士に対し、周囲は〝敵国の協力者〟との悪口を浴びせました。
しかし博士には、〝科学を平和のために〟との少年時代の誓いがありました。だから、勇気をもって行動したのです。
しかし、結局、広島、長崎に原爆が投下されました。博士は、大地が崩れ落ちるほどの衝撃を受けたそうです。
その後、博士は核物理学から放射線医療の研究に転進しました。
それは、自分が行った研究が人々のためにどう役立っているかを、自分の目で見える所で使われてほしいという切なる願いからでした。
人任せにしない。結果に責任を持つ──博士の姿勢は、科学者だけではなく世界の指導者の模範です。
未来を担う皆さんにも大切にしてほしい心です。
博士は、核兵器の廃絶を世界に訴え続け、連帯を広げてきました。
沖縄で博士とお会いした時、来日の長旅を気遣い、「お疲れになったでしょう」と声を掛けました。
91歳の博士は、ほほ笑みながら、「私は疲れることを、自分に許さないのです」と言われました。
博士は述懐しています。「使命を果たすには、あまりにもなすべきことが多くありすぎまて、とても疲れている暇などなかったのです」と。
人は、自らの使命を自覚したとき、最も強く、最も正しく、自分自身の英知と力を思う存分にに発揮していくことができる。
皆さんも、博士のように、青春時代の誓いと使命に生き抜く勇者であってください。
 
──かつて池田先生は、「英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな」との指針を創大生に贈られました。
科学の探究においても、重要な指針です。
池田先生 〝私は学ぶ! 学び続ける! 父母のため、友のため、民衆の幸福のために! 世界の平和のために!〟──創価教育の根本精神です。
人間の幸福を忘れてしまえば、〝学問のための学問〟〝人間を手段とする学問〟になって しまう。
科学を人間の幸福に奉仕する学問にするには、常に「何のため」と問い続けていく以外にありません。
「何のため」との問いこそ、偉大な探究と創造の道を開くキーワードです。
「科学の世紀」を「戦争の世紀」にしてしまった20世紀──皆さんは、その終幕から希望の21世紀を先導する転換期に生まれた不思議な世代です。
21世紀を「生命の世紀」「平和の世紀」へと転じていく。それが、皆さんの深き深き使命なのです。
 
──本年は戸田先生の原水爆禁止宣言から60周年。その重要な佳節に、国連で「核兵器禁止条約」が採択されました(7月)。
池田先生 人類の大きな転機です。
核兵器を「絶対悪」と断じ、その全面禁止を求めた戸田先生の精神が、いよいよ国際社会の規範となりつつあります。
核兵器廃絶への民衆の連帯を、いや増して強めていかねばなりません。
1957年の98日、先生は5万人の青年を前に、神奈川の天地で、「原水爆禁止宣言」を発表されました。
原爆は、人間の心の中にある悪が生み出した魔物です。
ゆえに先生は、〝人間の生命の魔性の爪〟をもぎ取ろうと、青年に「遺訓の第一」として託されたのです。
以来、60星霜、私は、この恩師の師子吼を、片時も忘れたことはありません。
世界の指導者と対談を重ね、毎年、平和提言などを通し、恩師の精神を訴えてきました。
創価学会SGIも、世界で平和の展示活動やシンポジウムなどに積極的に取り組んできました。
核兵器廃絶という平和の闘争に生きたロートブラット博士が、最も信頼したのも青年でした。
私も今、全く同じ気持ちです。世界の友と手を携え、この地球に平和の大潮流を起こしていってください。
さあ、君も、貴女《あなた》も、「生命の世紀」の英知光る開拓者《パイオニア》として、共に立ち上がろう!