小説「新・人間革命」 暁鐘 三十五 2017年10月12日
スカラ座での語らいで、バディーニ総裁は、さらに言葉をついだ。
「この公演は、山本先生の力がなければ、実現しなかったでしょう」
しかし、伸一は、秋月に言った。
「心配しなくても大丈夫だよ。
この伸一の確信通り、スカラ座は日本公演に賛同の意を示し、やがて仮契約を結ぶまでにいたった。
だが、当時の総裁の他界や、後任の総裁の病による引退などが続き、事態は、なかなか進展しなかった。
そしてこの一九八一年(昭和五十六年)秋の、スカラ座日本公演が決まったのである。
困難の壁に、一回一回、粘り強く、体当たりする思いで挑んでいく。
その行動の積み重ねが、誰もが“まさか!”と思う壮挙を成し遂げ、新しい歴史を創り上げていくのだ。
翌四日、伸一は、モンダドーリ出版社に招かれ、教育出版局長らと懇談した。
同社はイタリア最大手の出版社で、伸一と世界の知性との対談集を、イタリア語で出
版する企画があり、この日の訪問となったのである。
出版は、思想を流布し、精神の対話を育み、文化向上の力となる。