【第9回】  芸術家──「無限の向上」の人  (2018年1月1日)

最高峰を目指して前進!
 
 ──「世界広布新時代 栄光の年」が晴れやかに幕を開けました。未来部のメンバーは、新たな決意に燃えています。
 
池田先生 みんな、あけましておめでとう!
「栄光の年」は、何よりも未来部の皆さん一人一人が、元気に栄え光っていく年にしよう!
日蓮大聖人は、「未来の果を知らんと欲せば其の現在の因を見よ」(御書231㌻)と示されています。
「今」の新鮮な決意が、一年を開く力となる。
「決意は力なり。栄光への出発なり」──そして、その決意を持続し、成就させる原動力こそ、毎日の勤行・唱題なのです。
「きょうは、これに挑む」「あすは、これをやり切る」と祈りの中で決意を定め、一日一日を悔いなく、朗らかに飾っていこうよ!
受験生の皆さん、本当にご苦労さま! 健康で、ベストを尽くせるよう、朝な夕な、真剣に題目を送っています。
 
──メンバーは毎月、この連載を心持ちにしています。これまで幅広い職業について触れていただく中で、「夢が明確になりました」「勉強する姿勢が変わりました」と喜びの声が続々と届いています。
 
池田先生 うれしいね! 私も、皆さん一人一人と直接、対話する思いで、この連載に臨んでいます。
未来部時代は、誰もが「将来、何をしたいのか」「自分に何ができるのか」と考え、悩む時期です。
時には、自信をもてないこともあるかもしれない。
しかし、皆さんは、一人も残らず使命ある人です。無限の可能性があります。
だからこそ、世界の平和のため、人々の幸福のために、大いに学んでほしい。
真の実力を磨いてほしい。人間として最も「正しい道」を、胸を張って進んでいただきたいのです。
 
──今回のテーマは「芸術家・アーティスト」です。音楽、演劇、舞踊、文学、美術・工芸、写真、芸能、理美容、服飾・スタイル、デザイン、映像制作……どれも華々しいイメージがあり、皆の憧れの職業です。
 
池田先生 「この音楽を聴くと、元気が出る」「この絵を見ると勇気が湧く」「散髪すると新しい気持ちになる」
──皆さんも常日頃、身近な生活で、〝芸術〟に触れているのではないだろうか。
私も若き日から、芸術の力に励まされてきました。
質素なアパート暮らしでも、蓄音機(昔はこういったんだよ)で、よくレコードをかけました。
とりわけベートーベンの交響曲第5番「運命」は、私の大好きな作品です。レコード盤の溝がすり減るくらい聴きました。
恩師・戸田城聖先生の事業の危機に立ち向かった時も、この曲を聴いて、勇気を奮い起こしました。
作品は、べートーベン自身の「運命」との闘争を物語っています。聴覚を失うという、音楽家として最も厳しい運命と格闘し、数々の名曲を創造していったのです。
「どんなことがあっても運命に打ち負かされきりになってはならない。──おお、生命を千倍生きることはまったくすばらしい!」
この音楽の英雄の信念が苦闘の日々の私を鼓舞してくれました。そして競い起こる全ての試練を乗り越えていったのです。
今、私の〝手作り〟の音楽隊と鼓笛隊の友が、日本中、世界中に希望の音律を響かせてくれています。
東日本大震災熊本地震などで被害を受けた地域では、どれほど多くの方々が、その〝魂のメロディー〟に勇気づけられたことか。
芸術は〝生命の火花〟です。
いかなる運命に直面しようと、「にもかかわらず」「それでも」「だからこそ」という不屈の炎を、生命に赤々と燃え上がらせてくれるのです。
 
──池田先生が創立された民主音楽協会民音)は、本年、55周年、東京富士美術館(富士美)は35周年の佳節を迎えます。今や民音は、国内での公演は79000回を超え、交流国は108カ国・地域に広がりました。また、富士美は、国内屈指の西洋絵画コレクションをはじめ、所蔵作品は3万点に及びます。
 
池田先生 「私は恩師から「青年は一流に触れ、自身を高めよ!」と徹底的に薫陶を受けました。
一流の音楽を聴く。一流の絵画を観る──それは弟子としての真剣勝負でもあったのです。
民音、富士美を創立したのも、「広宣流布は文化運動だ」との恩師の指針を具現化するためでした。
当初は、反対の声もありました。芸術は〝特別な人たちのもの〟という風潮があったからです。
しかし、芸術に触れる感動は、世界共通です。芸術を万人に開き、芸術の力で世界の人と人を結ぶ。
心と心を通わせる。これこそが、民音と富士美の使命なのです。今日の大発展の様子を、恩師も会心の笑顔で喜んでおられることでしょう。
ともあれ、皆さんにも、存分に「一流」の作品に触れていただきたい。
また、貪欲なまでに「一流」の人物から学んでほしいのです。
 
──昨秋、民音公演で、世界最高峰のジャズ音楽家であるハービー・ハンコック氏とウェイン・ショーター氏らが演奏し、大反響を呼びました。お二人はアメリSGI創価学会インタナショナル)の芸術部のリーダーであり、池田先生とご一緒にてい談集『ジャズと仏法、そして人生を語る』を発刊しています。
 
池田先生 「ハンコックさんとショーターさんのご家族は、宝の同志です。
超一流の芸術家であることはもちろん、人間としても超一流です。未来部の皆さんにとって、手本となる生き方を示してくださっています。
お二人がSGIに入会したのは1970年代です。すでに、音楽家として名を高めていた頃でした。
さらに最高の演奏を追究する中で、「最高の哲学」を渇望していたのでしょう。
ハンコックさんは当時、同じバンドのメンバーから仏法の話を聞きました。エネルギッシュな演奏で聴衆を魅了し続けていた方でした。
ある時、ハンコックさんは彼に疑問をぶつけました。〝
君が新しい哲学か宗教を実践していると聞いた。それが何か知りたい〟と。
すると彼は、南無妙法蓮華経の題目について語り始めました。ハンコックさんは半信半疑ではあったものの、「試すだけでいいのなら、失うものは何もない」と祈り始めたのです。仏法を実践する中で、ハンコックさんの心が変わっていきました。
それまでは、一人の「音楽家」として「どんな演奏をするか」ということに、こだわっていました。
それが、一人の「人間」として、「目の前の一人のために、自分が心から信じるものをどう表現するか」との姿勢に変わっていったというのです。
ハンコックさんは語っています。
「真の芸術家には、まさに永遠の生命や人間の無限の可能性のように、学習し、探究し、成長し、人生のあらゆる側面と結びつく限りない能力があり、そこに終着点はないのです」
学び続ける人、探究し続ける人、成長し続ける人に、行き詰まりはない。
この無限の「向上心」こそが、芸術をはじめ価値創造の極意です。
若くして「最高の哲学」を持《たも》った皆さんには、さまざまな分野で、最高の次元を目指して努力していただきたいのです。
 
──ショーターさんは、40歳の時に信心を始めました。奥さまで今は亡きアナ・マリアさん教えてくれたのです。
 
池田先生 「アナ・マリアさんは、素晴らしい人格の方でした。
ショーターさんは、先に入会した彼女がどのように変わるのかを、ずっと見守っていたそうです。
そして、日に日に成長する彼女を見て、ショーターさんは驚きました。
思わず、「仏法を教えてほしい」と頼みこんだのす。実践を重ねてきたショータさんは今、心から感じています。
〝演奏は上手だが、中身のない、見せかけのアーティストにはなりたくない。
もっと成長しなければ〟と。そして、聴衆一人一人に、人間としての〝目覚め〟を生み出せる演奏をと、追究し続けているのです。
ハンコックさんも、ショーターさんも、芸術家は「人間としての成長」こそが最も重要であると強調しています。
そして「己の内面にあるものが、自らの芸術によって語られる物語の源泉となる」と訴えています。
芸術は、目に見えない魂の「力」を、見える「形」に表し、「力」と「形」が渾然となって、新しい「命」を得たものです。この〝生命の火花〟を生み出す心が、お二人にとっては信心であり、題目なのです。
芸術の道は、険しい茨の道です。
誉れの芸術部の友は、あえて、その苦しい道に挑み、困難を乗り越える中で、揺るぎない人格を鍛え、実力を磨いています。
まさに、生命の「栄光」の先駆者です。
有名であるとか、人気があるとか、芸術には、そうした評価の次元もあります。
しかし、最も大切なことは、どんな境遇にあろうとも、心がどうかです。いかなる哲学をもち、いかなる行動をし、いかなる創造をしているかです。
試練にあっても、心さえ負けなければ、必ず輝いていける。
どこまでも「心こそ大切なれ」(御書1192㌻)なのです。
私は、皆さんの中から、偉大な芸術家が陸続と世界へ羽ばたいていくことを、期待してやみません。
 
──学会の年間テーマに初めて「栄光」の二字が掲げられたのは、50年前の1968年(昭和43年)でした。この年の4月には、創価学園の第1回入学式が行われました。先生が日中国交正常化提言を発表したのは9月のことでした。
 
池田先生  創価の平和・文化・教育運動の大きな布石を打った年でした。
あれから半世紀、創価人間主義の連帯は、192カ国・地域に洋々と広がっています。
そして今、新たなる「栄光の年」の開幕です。それはまた、新たなる50年に向けての大航海の始まりです。
本年のテーマの「栄光」は英語で「Brilliant Achievmentブリリアント アチーブメント)」と訳されています。
「輝しき偉業」という意味です。広布と人生の「輝かしき偉業」を成し遂げる1年に、という誓いと願いが込められました。
今、世界の同志も、世界中の未来部も、わが「栄光」に向かって、力強く歩みを開始しました。
私にとって一番の栄光──それは、皆さん方の成長であり、勝利なのです。
さあ、次なる50年を担いゆく君よ、貴女《あなた》よ! 
私と一緒に、世界の友と一緒に、自分自身と我らの地球の輝かしき「栄光の未来」を開きゆこう!
 
参考文献はロマン・ロラン著『べートーヴェンの生涯』片山敏彦訳(岩波文庫