小説「新・人間革命」 誓願 三十二 2018年5月2日

「ビバ! マンデラ!」
一九九〇年(平成二年)十月三十一日、東京・信濃町聖教新聞社前は、五百人ほどの男女青年の歓呼の声に包まれた。
この日、山本伸一は、青年たちと共に、南アフリカ共和国の人種差別撤廃運動の指導者である、アフリカ民族会議(ANC)のネルソン・マンデラ副議長を迎え、会談したのである。
副議長は、投獄一万日、二十八年に及ぶ鉄窓での「差別との闘争」に勝利した、人権闘争の勇者である。
この翌年には、ANCの議長となり、九四年(同六年)には、全人種が参加して行われた南ア初の選挙で、大統領に就任することになる。
「"民衆の英雄"を満腔の敬意で歓迎いたします!」
車を降りたマンデラ副議長に、伸一が語りかけると、彼は、穏やかな笑みで応えた。
「お会いできて光栄です。日本に行ったら、ぜひ、名誉会長にお会いしなければならないと思っていました」
語らいが始まった。
伸一は、わざわざ足を運んでくれたことに感謝の意を表したあと、副議長の闘争を心から賞讃した。
「正義は必ず勝つことを証明されました。世界に勇気を与えられました」
マンデラは、獄舎にあって、囚われた人たちが、それぞれの専門知識や技術を教え合う学習の組織をつくった。
また、あらゆる障害と戦い、政治囚の"学ぶ権利"を拡大していった。
そうして、「ロボットのような群衆」をつくり出す、牢獄による「精神の破壊」と「知性の否定」を克服していったのである。
伸一は、この獄中闘争に言及した。
「貴殿が牢獄を"マンデラ大学"ともいうべき学習の場に変えた事実に、私は注目したい。
どこにいても、そこに『教育』の輪を広げていく。人間としての向上を求めてやまない。
その情熱に打たれるんです」
向上への不屈の信念がある人には、すべてが学びの場となる。