小説「新・人間革命」 陽光42 2月21日

山本伸一の声は、厳粛さを帯びていった。

 「戸田大学には校舎も図書館もありません。卒業証書もなかった。

 しかし、師匠と弟子の黄金の絆が、永遠不滅の輝きを放つ師弟の魂がありました。人類のための平和博士を、幸福博士を育む大学でした。

 ゆえに、戸田大学は世界一の、最高の大学であると確信しています。

 私は、その戸田大学の優等生として、それを世界に証明する義務があると思っています。いや、必ずそうしてみせます。それが弟子の道です。

 皆さんは、アメリカ山本大学の第一期生です。短い期間ではありましたが、私は全生命を、全精魂を注ぎ尽くす思いで研修を行いました。

 皆さんが、私と同じ決意で、アメリカの人びとの幸福のために、平和のために、その生涯を捧げてくださることを信じております」

 唇をかみしめながら、頷く青年がいた。眼を潤ませ、決意を固めるように、拳を握りしめる青年もいた。

 潮騒が空に響いた。

 それは、青年たちの新しき出発を祝福する、天の拍手を思わせた。

 伸一は話を続けた。

 「戸田先生は、苦境のさなか、ある講義が修了した時、机の上に飾ってあった一輪の花を取ると、私の胸に挿してくださった。

 『この講義を修了した優等生への勲章だ』

 そして、こう言われて微笑を浮かべられた。

 『苦労をかけて申し訳ない。伸一は、本当によくやってくれているな』

 私は厳粛な気持ちで、先生を見つめました。一輪の花といえども、師匠から授かった勲章です。世界中で最も尊い、最高の誉れであると思いました。実は、その心が大事なんです。

 私は今回の訪問で各地から名誉市民の称号などをいただきましたが、こうして顕彰される根本の因は、その心にあったと確信しています。

 本日、私も戸田先生と同じ思いで、諸君に卒業証書をお渡ししたことを忘れないでください」

 青年たちの瞳が決意に燃え輝いた。

 フランスの作家アンドレ・ジッドは、青年たちに「諸君のうちに未来がかかっている」(注)と訴えた。

 それはまた、伸一の魂の叫びでもあった。



引用文献: 

 注 アンドレ・ジイド著『ソヴェト旅行記』小松清訳、岩波書店=現代表記に改めた。