小説「新・人間革命」 陽光45 2月24日

 山本伸一の乗った飛行機が、ハワイのホノルル空港に到着したのは、四月十日の午後五時(現地時間)であった。

 機中、伸一は、パシフィック方面長のヒロト・ヒラタのことを、祈り続けていた。

 ヒラタは、既に退院したとの報告を受けてはいたが、実際にどこまで健康を回復しているのか、心配でならなかったのである。

 ――ヒラタは、サンディエゴ・コンベンションに参加する打ち合わせをしていて、心臓発作を起こして倒れた。

 これまで糖尿病と高血圧をかかえていたが、百キロを超す巨体で、精力的に動き回ってきた。

 病院に運ばれた彼は、一時は意識不明の状態となり、病院のICU(集中治療室)で治療が続けられた。

 医師は、妻のタツコに告げた。

 「これまで何もなかったのが、不思議なぐらいです。ご主人の心臓には傷があります!」

 やがて意識を回復したヒラタは、妻から医師の言葉を聞かされた。

 また、伸一が帰途、自分を見舞うために、ハワイを訪問してくれることも知った。

 ヒラタは、病室で必死に唱題し、むさぼるように御書を拝した。

 「しを(潮)のひると・みつと月の出づると・いると・夏と秋と冬と春とのさかひ(境)には必ず相違する事あり凡夫の仏になる又かくのごとし、必ず三障四魔と申す障いできたれば賢者はよろこび愚者は退くこれなり」(御書一〇九一ページ)

 この御文に、彼の目は釘付けになった。

 これまでに何度も拝してきた御文であるが、この時、初めて自分自身のこととして、鮮烈に胸に迫ってきた。

 彼は思った。

 “今こそ、広宣流布の大きな流れを開き、ハワイが大飛躍していく時なのだ。だから、魔が競い起こった。断じて負けるものか!”

 彼は“ハワイの広宣流布を成し遂げるために、生命を与えてください”と、真剣に祈った。

 正しき信心がある限り、恐れるものなど何もない。

 スイスの哲学者ヒルティは言明している。

 「人生のあらゆる困難がこの信仰を深めるための単なる修練となるであろう」(注)



語句の解説

 ◎三障四魔/信心修行を阻み、成仏を妨げる三種の障り(煩悩障、業障、報障)と、四種の魔(煩悩魔、陰魔、死魔、天子魔)のことをいう。御書に「此の法門を申すには必ず魔出来すべし魔競はずは正法と知るべからず、第五の巻に云く『行解既に勤めぬれば三障四魔紛然として競い起る……』」(一〇八七ページ)とある。