小説「新・人間革命」 陽光46 2月26日

ヒロト・ヒラタは、山本伸一のハワイ訪問を前に退院した。しかし、まだ、本格的に健康を回復したわけではなかった。

 四月十日、ヒラタは空港に駆けつけ、伸一の到着を待っていた。

 午後五時、伸一たちが乗った飛行機が到着する直前、上空に、大きな鮮やかな虹がかかった。

 その虹のアーチの下、伸一はホノルル空港に降り立ったのである。

 「先生!」

 ヒラタが叫んだ。

 「おおっ、リキさん」

 伸一は、ヒラタのニックネームを呼ぶと、駆け寄り、彼の手を強く握り締めた。

 百キロを超えていた巨体の“リキさん”は、すっかり痩せ細り、痛々しいほどであった。

 伸一は、彼を抱き締めながら言った。

 「リキさん、まだ、倒れちゃだめだよ。

 心配したよ。ずっと、ご祈念していたんだよ。

 ……でも、元気になってよかった。本当によかった」

 「先生……」

 ヒラタは、こう言ったきり、絶句した。

 自分のことを気遣い、わざわざハワイに寄ってくれた伸一の心を思うと、申し訳なさと、ありがたさで胸がいっぱいになり、言葉が出なかったのである。

 ヒラタの目から、大粒の涙があふれた。

 伸一は、包み込むような微笑を浮かべて、語っていった。

 「リキさん、題目しかないよ。今こそ信心で宿命を乗り越える時だ。広宣流布に生き抜く決意を定めることだよ。

 それが宿命転換の原動力だ」

 広宣流布をわが使命として生きる時、わが身に地涌の菩薩の大生命力が脈打ち、宿命の鉄鎖は打ち砕かれていくのだ。

 伸一は言葉をついだ。

 「来年は、このハワイで大々的にコンベンションが行われる。これは、世界平和の夜明けとなるコンベンションだ。

 リキさんが、あなたが、その主役だ。

 もっと、もっと元気になって、大成功のハワイ・コンベンションにしてください。頼むよ」

 ヒラタは、ポロポロと涙を流しながら言った。

 「もう、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません。頑張ります。断固、頑張ります」