小説「新・人間革命」 宝塔3 3月7日

 誰もが、平和を叫ぶ。誰もが、生命の尊厳を口にする。

 しかし、その尊いはずの生命が、国家の名において、イデオロギーによって、民族・宗教の違いによって、そして、人間の憎悪や嫉妬、侮蔑の心によって、いともたやすく踏みにじられ、犠牲にされてきた。

 いかに生命が尊いといっても、「根本尊敬」という考えに至らなければ、生命も手段化されてしまう。

 ボリビア人間主義の大詩人フランツ・タマーヨは訴えた。

 「世の中に存在するすべては、生命に奉仕するために存在する。哲学も、宗教も、芸術も、学問も、すべて、生命に奉仕し、生命に仕えるために存在するのである」(注)

 人類に必要なのは、この思想である。そして、生命が尊厳無比なることを裏付ける、確たる哲学である。

 人間の生命に「仏」が具わり、“本尊”であると説く、この仏法の哲理こそ、生命尊厳の確固不動の基盤であり、平和思想、人間主義の根源といってよい。

 その生命の哲理を、人類の共有財産として世界に伝え、平和を実現していくことこそ、自身の使命であると、山本伸一は決意していたのである。

 伸一は言葉をついだ。

 「この仏法という生命の法理を原点として、あらためて人間とは何かを問い直し、新しき『人間の復権』をめざしているのが、私たちの広宣流布の大運動なのであります」

 そして、学会が、人間の復権のために、地域に根ざした広範な文化活動を展開し、社会の建設に取り組んでいることを訴えていった。

 出席した来賓の多くは、伸一の話から、宗教が人類社会に果たす役割の大きさを知り、驚きを隠せなかった。

 北陸は、浄土信仰が深く根を下ろしてきた地域である。

 その念仏の哀音と思想は、心の“なぐさめ”にはなったとしても、社会を変革・創造し、未来を切り開く理念とはなりえなかった。

 そうした仏教に慣らされてきた人びとにとっては、「生命の尊厳」の哲理を根本に、人間の復権をめざす創価学会の仏法運動は、衝撃的でさえあったようだ。

 

 引用文献: 注 『フランツ・タマーヨ選集』ビグリオテカ・アジャクーチョ(スペイン語版)