小説「新・人間革命」 宝塔40 4月20日

 反戦出版に携わった青年たちは、人びとの証言から、国家神道を精神的支柱とした軍国主義思想の恐ろしさを、痛感するのであった。

 守るべき中心は国民ではなく国家とし、国のために勇んで死んでいける人間をつくることが教育であったのだ。それは万人を「仏」と見る、生命尊厳の仏法の法理とは対極の思想である。

 経文には「国土乱れん時は先ず鬼神乱る鬼神乱るるが故に万民乱る」(御書一九ページ)とある。鬼神とは、現代的には思想といえよう。

 思想の乱れ、すなわち誤った思想が、国家を、社会を、民衆を狂わせ、やがて国をも滅ぼしてしまうことを戒めているのだ。

 青年たちは、この反戦出版を通して、一人ひとりの胸中に生命尊厳の哲理を確立する広宣流布こそ、恒久平和への直道であることを深く自覚していった。

 また、人間の生命を制御し、善の方向に変えていく人間革命なくして、平和の創造はないことを強く実感したのだ。

 反戦出版全八十巻の完結は、平和への一大金字塔として大きな反響を広げ、多くの識者が「偉業に脱帽」「反戦平和への一大証言集」等と絶讃の声を寄せてくれた。

 反戦出版が完結して間もなく、山本伸一は青年部の首脳と懇談した。

 「よく頑張ったね。大変な壮挙だ。これで戦争体験の風化をくい止め、反戦平和の一つの砦を築くことができた」

 すると、青年の一人がはつらつと応えた。

 「先生は、世界平和のために一人立たれ、ベトナム戦争の即時停戦や日中国交正常化の提言等を、命がけで発表してくださいました。

 “私たちも弟子として平和のために戦いを起こそう。先生に続こう”との思いで、この活動に取り組みました。

 そう心を定めると勇気が出ました。力がわきました。この反戦出版は師弟共戦の賜物です」

 「ありがとう。君たちが後に続いてくれると思うと力が出る。二十一世紀を『平和の世紀』『生命の世紀』にするために共に戦おうよ」

 反戦出版の完結は、終わりではなく、始まりであった。それは伸一と青年たちの、新しき平和運動の旅立ちを告げる号砲となったのである。