小説「新・人間革命」 友誼の道13 5月16日

 廖承志会長は、恰幅がよく、まさしく「大人」の風格があった。

 その廖会長が、包み込むような微笑を浮かべ、流麗な日本語で、山本伸一に語りかけた。

 「ようこそ、おいでくださいました」

 日本生まれの廖会長は、日本人以上に日本語がうまいと言われる。

 「お出迎えいただき、大変にありがとうございます。また、このたびのご招待に対し、深く、御礼、感謝申し上げます」

 伸一は、こう言うと、廖会長の手を、強く握り締めた。ふっくらとした手の温もりから、日中の友好を願い、奮闘してきた情の深さが伝わってくるかのようであった。

 出迎えてくれたのは、中日友好協会の最高スタッフである。

 さらに伸一は、廖会長夫人の経普椿理事、張香山副会長、趙樸初副会長(全国政治協商会議常務委員)、孫平化秘書長、金蘇城理事らと、次々に握手を交わしていった。

 伸一は、その真心こもる歓迎に、両国の友好を願う中国の熱い思いが感じられてならなかった。

 一行は、数台の車に分乗して、空港から、宿舎の北京飯店に向かった。

 伸一の車には、孫秘書長が同乗してくれた。

 孫は、中国の現状を語りながら、静かな口調で言った。

 「中国は、まだ貧しい国です」

 謙虚な言葉であった。そして、「まだ」という言葉に、未来の建設に立ち向かう、気概と誇りが秘められていた。いや、未来の発展に対する自信と余裕さえ感じさせた。

 伸一は“中国は将来、必ず、大発展を遂げていくだろう”と確信した。

 現在、その国が、どんなに豊かであろうが、人びとに建設の気概がなければ、待っているのは衰退である。

 しかし、栄華に酔い痴れ、傲慢になってしまうと、それがわからなくなってしまうのだ。

 御聖訓には、中国の古典を踏まえて、「賢人は安きに居て危きを歎き佞人は危きに居て安きを歎く」(御書九六九ページ)と仰せである。

 賢人は安全な所にいても危険に備え、邪な愚人は、危険な状態にあっても、それに気づかず、ただ安穏を願うというのである。

 栄枯盛衰は時流が決するのではない。人間の一念と行動が決するのだ。