小説「新・人間革命」 友誼の道41  6月19日

 山本伸一は、頬を紅潮させて語った。

 「金先生! おっしゃる通りだと思います。

 最も強いのは人間の心です。その心から、無限の智慧も、創意工夫も生まれます。

 したがって、心が敗れなければ、どんな窮地に立たされても、絶対に負けることはありません。

 人生でも、社会を改革する戦いでも、敗れる前に、まず心の敗北があります。

 怠惰、臆病、油断、焦り、あきらめ、絶望――これらが精神を蝕み、結局、敗れてしまうことになります。だから、心を鍛え、強くしていかなければならない。そのための哲学なんです。

 創価学会は、何度も大きな苦難の嵐に襲われました。しかし、常に不死鳥のように立ち上がってきました。それは、どんな試練にさらされても、心は一歩も引かなかったからです」

 金理事の大きな声が響いた。

 「よくわかります!

 山本先生は、勇気をもって、日中国交正常化を提言され、さらに、日中平和友好条約の締結も主張されています。

 激しく批判されながらも、微動だにされませんでした。そこに、創価学会を貫く、精神の強さ、堅固な心を感じます」

 「ありがとうございます。世界平和に尽くしていくことは、私の人間としての使命です。

 日本と中国が友好を結ぶことは、世界の平和を実現していくうえで、絶対に不可欠な条件です。したがって、断じて成し遂げなければならない。その信念で、私は行動しております。

 私たちは、力を合わせて“平和の長城”“友好の長城”“精神の長城”を築いていきましょう」

 対話は尽きなかった。

 伸一は微笑みながら言った。

 「北方の民族の侵入を防ぐための防壁で、国家の壁を超えた、人間と人間の交流がもてたことに感謝します」

 一同の朗らかな笑いが青空に響いた。

 人類の歴史遺産である万里の長城で、結ばれた友情の劇であった。

 この日、一行は明の十三陵の一つである定陵に立つ定陵博物館、さらに十三陵ダムを視察した。

 伸一が宿舎に帰ると、明六日夜、李先念副総理と会見することが伝えられたのである。