小説「新・人間革命」 友誼の道64  7月16日

山本伸一の一行が盧湾区の少年宮に着いた時には、朝方、降っていた雨はやんでいた。雨あがりの石畳を歩いていくと、拍手がわき起こった。

 少年宮の責任者や教師、子どもたちが、満面に笑みを浮かべて迎えてくれた。

 「日本のおじさま、おばさま、ようこそおいでくださいました。ありがとうございます」

 中国語の、元気な歓迎の声が響いた。

 えくぼの印象的な高学年の少女と、リボンの似合う低学年の少女が、左右から伸一の手を取って案内してくれた。

 歓迎の席で、一人の少女が、少年宮の目的や設立経過を、さわやかな声で説明してくれた。

 さらに、教師からも、説明があった。

 上海には、各区に、それぞれ少年宮があり、区内の子どもたちが、代わる代わるやってくる。

 そして、ゲームを楽しんだり、体を鍛えたり、文芸や科学技術、人民に奉仕することなどを学ぶのである。

 少年宮の教師は教員だけでなく、工場の労働者や技術者など多彩であるという。

 子どものためには、学校以外にも、それぞれの自主性を生かし、さまざまな特性を生かせる教育の場が必要である。

 特に、日本の学校教育は、知識偏重の傾向が強いだけに、人間の生き方を学び、心を磨き鍛える教育の場が強く求められているといえよう。

 創価学会の未来部の活動は、その先駆となる課外活動といえよう。社会の期待は、今後、ますます大きくなっていくにちがいない。

 孫文夫人の宋慶齢国家副主席は、「子供たちは、私たちの未来であり、希望です」(注)と述べている。

 大人は、その子どもたちに、何を贈るのか。

 ――それは、平和である。生命の尊厳と人権尊重の社会である。未来に希望をいだける社会である。

 そこに、大人の義務がある。子らの未来のために戦うのだ。そのために勝つのだ。

 子どもや教師の説明が終わると、伸一があいさつした。

 「私は日本からまいりました。

 皆さんにお会いすることは私の希望であり、この訪問を最大の楽しみにしておりました」



引用文献:  注 イスラエル・エプシュタイン著『宋慶齢』久保田博子訳、サイマル出版会