小説「新・人間革命」 友誼の道68  7月20日

 山本伸一は、居合わせた壮年に、笑顔で声をかけた。

 「私は日本からまいりました。西湖の美しさは日本でも有名なんです」

 伸一の笑顔に、壮年も笑顔で応えた。

 「日本の桜も有名ですよ。桜の季節は美しいと聞いています」

 二言、三言、言葉を交わすうちに、たちまち心は打ち解けていった。

 伸一は言った。

 「では、日中の友好を願って、桜に関係する歌を皆さんにお聴かせしましょう」

 同行のメンバーが「桜花爛漫の歌」を合唱した。

 

 桜花爛漫 月朧ろ 胡蝶の舞を …………

     

 歌い終わると拍手が起こった。

 伸一は、雨宿りをしていた人のなかに一人の少年を見つけると、励ましの言葉をかけた。

 「君たちが二十一世紀の主役です。しっかり勉強して、立派な人になってください。日本へも、ぜひ来てください」

 通訳が伝えると、少年は、はにかみながら笑いを浮かべて頷いた。

 また、経験豊富な鉱山労働者だという人には、こう語りかけた。

 「力を使い、大変であるかもしれませんが、尊い仕事です。どうか、いつまでも長生きをしてください。

 あなたが元気であるということが、人民の勝利です」

 その壮年は、嬉しそうに答えた。

 「そう言われると、やる気が出るね。頑張ろうという気になるよ。あんたも元気でな!」

 「ありがとう。お互いに永遠の青年でいきましょう」

 二人は、笑顔で握手を交わした。

 花港観魚公園をあとにした時、同行していた学生部長の田原薫が、伸一に尋ねた。

 「先生は、いつ、どこにあっても、相手の心を的確にとらえた、励ましの言葉をかけられますが、その秘訣はなんなのでしょうか」

 伸一は言った。

 「秘訣などあるわけがない。私は真剣なんだ。

 この人と会えるのは今しかない。そのなかで、どうすれば心を結び合えるかを考え、神経を研ぎ澄まし、生命を削っているのだ。その真剣さこそが、智慧となり、力となるんだよ!」