小説「新・人間革命」  9月7日 懸け橋34

山本伸一の一行は、ソ連科学アカデミーからモスクワ大学に向かった。

 午後二時から、ホフロフ総長主催の昼餐会が開かれたのである。

 大学に到着すると、講堂内にある貴賓室に案内された。

 そこには、総長のほか、V・A・プロトポポフ同大学党書記、トローピン副総長をはじめ、学部長や教授などが集っていた。

 また、N・S・エゴーロフ副高等中等専門教育相、ソ連対文連のA・M・レドフスキー副議長など、伸一がこれまでの滞在で友好を深め合った関係者の多くがいた。

 最初にあいさつに立ったホフロフ総長は、伸一の人間性に深く共感したことを述べ、グラスを手にして言った。

「山本会長のヒューマニズムのために乾杯!」

 食事をしながら、出席者の主だった人が立ち、あいさつをした。

 プロトポポフ大学党書記は、力を合わせ、戦争のない世界の建設へ進むことを力説した。

 エゴーロフ副高等中等専門教育相は、ソ日間の発展に最も寄与する分野は教育であると強調し、モスクワ大学創価大学との今後の交流のために乾杯を呼びかけた。

 やがて、山本伸一があいさつに立った。

 彼は、文化、教育の交流こそ、末永い友好の道であると語り、ホフロフ総長夫妻の創価大学への訪問を要請した。

 さらに、恩師である第二代会長の戸田城聖が、“この地球上から悲惨の二字をなくすために、生命を捧げよ”と遺言したことに言及。弟子としてその遺言のままに、一民間人ではあるが、世界平和に生き抜く決意であることを語った。

 世界平和の実現こそが、創価の師弟の大誓願であり、それが広宣流布の精神なのだ。

 このあと、創価大学の学長から、モスクワ大学との交流計画の概要が述べられた。モスクワ大学と検討を重ねてきた計画案である。

(1)両大学は教授を相互に交換、派遣する(2)学術研究資料を交換する(3)学生の交換、学術調査団の派遣を検討する――との内容であった。

 具体化できる事柄については、この滞在中に、さらに煮詰めていくことになった。両大学の交流への大道が、開かれようとしていたのである。