小説「新・人間革命」 共鳴音25  6月17日

 山本伸一は、仏法の視座から、真実の幸福と人間革命の関係について語っていった。

 「仏法は、人間が欲望に支配され、物質的・環境的条件の充足による幸福の追求にとらわれている限り、真実の幸福はないと教えています。

 そして、利己的な欲望や本能的衝動に支配されない主体性を確立し、他者と協調し、自然と調和していく生き方にこそ、幸福実現の道があることを説いています。

 その生き方は、人間の生命に内在し、宇宙万物を統合する永遠の法則に融合を求めていくなかで確立されていくものであり、そこに人間革命の道があると、仏法では教えているんです。

 ともあれ、人間の内面の変革がなければ、人類のかかえる諸問題の解決はありえません」

 ペッチェイ博士は、静かに頷いた。

 「仏法の説く法則については、十分に理解しているとは言えませんが、おっしゃることは、よくわかります。強く心に響きます」

 ゲーテは「意見が完全に一致したかどうかは問わなくてよい。同じ趣旨で行動しているかどうかを問え」(注)と述べている。

 ペッチェイ博士も、伸一も、地球的な問題群を切実にとらえ、人類の未来のために、命を惜しまず行動し抜いてきた。だからこそ二人は、多くの部分で強く共鳴し合うことができたのである。

 博士は尋ねた。

 「人類の人間革命を成し遂げていくには、どれぐらいの時間が必要でしょうか。

 人類は今、核兵器の問題や環境破壊など、多くの難問をかかえています。人間自身の変革を百年待つことは、とてもできません。急がねばならないのです」

 伸一は応えた。

 「人間を変革する運動は漸進的です。かなりの時を要します。

 しかし、行動せずしては、種を蒔かずしては、事態は開けません。

 私は、今世紀に解決の端緒だけは開きたいと思っています。

 そのために、これまでにも増して、さまざまな角度から、さらに提言を重ね、警鐘を発していく決意です。

 また、エゴイズムの根本的な解決のために、私どもの人間革命運動に、一段と力を注ぎます」



引用文献:  注 「箴言省察」(『ゲーテ全集13』所収)岩崎英二郎訳、潮出版社