小説「新・人間革命」 宝冠52  9月13日

山本伸一の誓いのこもったあいさつが、参加者の胸に響いた。

 「真の友好とは、その場限りのものではなく、将来にわたる、崩れざる友好でなければなりません。また、相互理解には、相互努力がともなうべきものであり、それがあってこそ、平和は達成されます。

 私は、永遠に日ソの平和交流を貫いていきます――その決意を、遺言にも似た思いで、ここに語っておきます。

 私たちは、永遠にわたる友好をめざしていこうではありませんか!」

 話し終わると、一瞬、場内は水を打ったように、静寂に包まれた。皆、この数日間、目の当たりにしてきた伸一の行動を思い起こしながら、彼の言葉をかみしめているようであった。しばらくして拍手が鳴り響いた。

 その時、一人の日本人女性が立ち上がった。日本対外文化協会の紹介で、通訳として第一次訪ソの時から伸一たちに同行してきた女性である。しかし、彼女は、立ったきり、なかなか話を始めなかった。見ると、その目は潤み、懸命に嗚咽を堪えていた。

 やがて、肩で大きく息をし、話し始めた。

 「私は、今、泣いております。……私は長い間、通訳をしてきただけに、今、先生の話した日本人の悪い面は、いやというほど目にし、耳にしてきました。友好を口では唱えながら、心は違っている人が多かったのです」

 言葉が途絶えた。込み上げる感情を抑えるように、彼女は、話を続けた。

 「私は、私は……今の先生の話を聞き、先生の行動を見て……、初めて、通訳をしてきてよかったと心から言うことができます。先生、ありがとうございました!」

 その目は輝き、頬には涙が光っていた。

 平和を願っての伸一の懸命な行動を間近で見てきた彼女は、真の友好に貢献できた喜びから泣いたのである。会場は、さわやかな感動に包まれた。

 惜別の時は過ぎ、光あふれる戸外で記念のカメラに納まり、パーティーは終了した。