小説「新・人間革命」  12月23日 新世紀30

井上靖は、戸田城聖山本伸一の師弟の絆に、強く共感したようだ。

 「もし恩師がなかったとしたら、今日の自分は無にひとしい存在であったに違いないといったことをお書きになっているのを記憶しております。本当の師弟の関係というものは、そういうものであろうと思います」

 さらに、井上は記す。

 「師との出会を大切にし、それをお育てになったことはもちろんですが、もっと本質的な言い方をすれば、出会を大切にするもしないもない、

お会いになったという、ただそのことだけで抜きさしならない関係が、お二人の間に成立したということ、成立させるものがお二人の間にすでに用意されてあったということであろうかと思います。

そうした特別な、謂ってみれば運命的なものに、ある讃嘆の念を覚えずにはいられません」

 透徹した文人の眼は、三世にわたる師弟の絆を見ていたのかもしれない。

 また、井上は、伸一の詩「主題」に「人生にも主題がある」とあるが、「その主題を、戸田城聖氏との出会によって、若くしてお持ちになったわけであります」と書いている。

 井上もまた、人生の師を求めていたのであろうか。

 戸田と伸一を貫く人生の主題――それは、広宣流布という、人類の幸福と平和の実現である。いかなる主題をもつのかによって、人生は決定づけられてしまうともいえよう。

 伸一は、井上の書簡を読みながら、戸田城聖という師と出会い、崇高にして偉大な人生の主題を得たことに、あらためて深い感慨を覚えるのであった。

 この手紙には、井上が郷里の伊豆に帰り、家で手にした伸一の詩集『青年の譜』に収められた詩「母」への感想も記されていた。

 「心打たれました。母が持つ愛の無限の深さ、強さ、広さ、美しさを称えて、その汚れなき広大な愛を、この人間社会関係の基調に置くことができたらと、高い調子で謳っておられます」