小説「新・人間革命」  1月30日 潮流5

アメリカの首脳幹部との打ち合わせを終えた山本伸一は、峯子とホテルの庭に出た。

 眼前に、夜の海が広がっていた。空には丸い月天子の微笑みがあった。

 海面は白銀にきらめき、寄せ返す波の音が静かに響いていた。

 伸一は、懐かしそうに語り始めた。

 「十五年前に最初にハワイを訪問した時、ハワイ滞在は三十数時間だった。

 空港からホテルに着いたのが午前二時近く。打ち合わせをして、一、二時間うとうとしたら、目が覚めてしまった。朝食をとっている時にメンバーが訪ねてきて、それからフル回転だった。

 みんなを励まし、現地の視察に回りながら地区をつくる打ち合わせをした。そして、座談会に出て、質問を受けながら全力で指導と激励を重ねたあと、地区を結成した。

 夜も、メンバーが訪ねてきて、懇談となった。特に地区部長になったヒロト・ヒラタさんとは、深夜まで語り合った。最後は二人だけでホテルのテラスで話した。その日も、月がきれいな夜だった」

 ヒラタは、学会活動の経験もあまりないだけに、伸一は必死だった。中心者がどれだけ真剣になり、いかに行動するかによって、組織がどうなるかが決まってしまうからだ。

 伸一は彼に、生活の問題から組織運営の在り方まで、あらゆる面から、全生命を注ぐ思いでアドバイスし、励ました。

 「結局、寝ることができたのは、午前三時近くだった。それで午前五時半に起床し、七時にはホテルを出て、サンフランシスコに向かったんだよ」

 峯子が、しみじみとした口調で言った。

 「時差の疲れもありましたのに、無理に無理を重ねて……」

 伸一が、力のこもった声で応えた。

 「体を張らずして、生命をかけずして、一閻浮提への広宣流布の道など、切り開けるわけがない。私はその覚悟で世界を回った。だから、今日の世界広布の大発展があるんだ」