小説「新・人間革命」  3月24日 潮流49

山本伸一は、固唾をのむようにして彼の次の言葉を待つ、浜辺の聴衆に呼びかけた。

 「今や時代の潮流は、友好と調和へ赴かざるを得なくなってきたというのが、私の実感であります。あのアポロとソユーズのドッキング成功は、友愛と協力の未来への門出を象徴していると、私には見えるのであります。

 その意味からも、未来性豊かなメンバーの皆様に対し、また、新たな歴史創造に旅征かれるアメリカ合衆国に対して、私は心よりその発展を願うものであります」

 そして、州知事をはじめ、地元の関係者に深い感謝の意を表して、彼は話を結んだ。

 大歓声と拍手が潮騒のように、ワイキキの空に舞った。

 アメリカは科学技術や軍事力、経済力をもって世界をリードしてきた。しかし、あのベトナム戦争の失敗は、そうした在り方に再考を迫るものとなっていた。

 伸一は、これからのアメリカは、精神の力、文化の力をもって人類に貢献していく、新しい道を切り開いていってほしいと、強く念願していたのである。

 このあと、アメリカのメンバーの代表が、あいさつに立った。

 「アメリカの建国から二百年後の今日、新たなるフロンティアスピリットで、永遠なる平和の新世界を築かんとする私たちが挑む“敵”とは、かつてのように外の世界にあるのではありません。

ほかならぬ私たち人間の生命の内奥に潜んでいるのであります」

 彼は、一人ひとりが自身を変革し、際限なき欲望やエゴイズムを乗り越え、麗しき人間共和のアメリカを、そして、世界を建設していくことに、「立正安国」という仏法者の使命があると訴えた。

そして、その実践こそ、建国の先駆者たちの精神に合致するのではないかと述べたのである。

 SGIの精神とは、一人ひとりが、その国や地域の“良き市民”となることだ。“良心”となることだ。社会の繁栄と平和と、人びとの幸福を築く原動力となることだ。