小説「新・人間革命」  4月17日 波濤4

外国航路の船員は、頻繁に海外に行け、賃金もよいことから、憧れの職業の一つとされてきた。

 しかし、ひとたび船に乗ると、長ければ、勤務は一年以上に及ぶこともある。生活のリズムも、周りの景色も、単調そのものである。

 嵐ともなれば、十メートルを超える荒波が、次々と襲ってくる。大型の船でさえ、立っていることもできないほど、激しく揺れる。大自然の猛威に、命の縮む思いをすることもたびたびである。

 一瞬の油断、一回の判断ミスが、大きな事故につながることもあるだけに、神経をすり減らすことも多かった。

 船内では、立場による厳格な立て分けもあった。それによって、部屋も、個室か、相部屋かが決まる。たいていの乗組員は、相部屋である。そのなかで信心を貫くのは、決して容易ではなかった。

 勤行をするにも、同室の人の了承が必要になる。言い出す勇気がないと、布団の中で小声で勤行するか、勤行自体をやめてしまうようになる。

 また、勤行を始めれば、学会員であることは、すぐに皆に伝わった。すると、冷やかされたり、批判されたりもした。

批判の内容は、根拠のない噂や、誤った先入観によるものであった。それと戦うことから、船内での信心が始まるのだ。悪口を打ち破ることができずに、悔しい思いをすることもあった。

 信心で苦境を脱した体験などがあり、確信をもっているメンバーは、非難や中傷にも屈しなかった。だが、なかには、意気揚々と乗船してきても、環境に負けて、信心から離れていってしまう人もいた。

 まさに「聴聞する時は・も(燃)へた(立)つばかりをも(思)へども・とを(遠)ざかりぬれば・すつる心あり」(御書一五四四ページ)との、御聖訓通りであった。

 「孤立した人間は無力である。事実、弱い」(注)とは、スペインの人権活動家アレナルの指摘である。



引用文献:  注 『ソペナ―箴言集』エディトリアル・ロマン・ソペナ(スペイン語