小説「新・人間革命」  5月23日 波濤34

展示された写真は、迫力にあふれていた。

 台風で荒れ狂う海原を突き進む船、カリブ海に懸かる虹、寒波の襲来で氷結したアメリカ・チェサピーク湾、アフリカ南端の海に昇る旭日もあった。パナマ運河スエズ運河を行く船の風景もあった。

 また、インドネシアやオーストラリアの子どもたちの写真もあれば、馬車が走るパキスタン・カラチの街角や、シンガポールのビル群、チューリップが咲き競うオランダの公園の写真もある。さらに、

船倉での清掃作業や、カツオの一本釣りに汗を流す、働く海の男たちの奮闘をとらえた写真もあった。

 そこには、世界があり、ロマンがあった。闘魂があり、希望があった。そして、平和を願う心があった。

「波濤会」の写真展が、大成功に終わったことを聞いた山本伸一は言った。

「社会に船出したね。みんなの戦いと努力を、いつか、歴史に残してあげたいな」

 第二回の写真展は、翌一九八八年(昭和六十三年)の七月、横浜郵便貯金会館(当時)で開催された。出品作も一段と充実していた。

 伸一も、ぜひ祝福に駆けつけたかったが、どうしても、時間の都合がつかなかった。そこで、自分の名代として、長男の正弘を激励に差し向けた。

「よい作品がたくさんあり、好評を博していました。多くの人が感動していました」

 正弘は、こう感想を語り、作品の内容や参加者の声など、こと細かに報告した。彼の報告は、常に正確で客観的であった。

 また、伸一は、何人かの幹部にも、様子を見てきてもらい、感想を聞いた。

 伸一は、皆の話から、写真展の模様を、鮮明に思い描くことができた。

「皆の意見や報告を、きちんと聞くことだ。皆の目を自分の目とし、皆の耳を自分の耳としていくのである」(注)

 これは、中国・三国時代蜀漢の名丞相・諸葛亮孔明の教えである。



引用文献: 注 諸葛亮著『十六策』夏涵(か・かん)注訳、中国三峡出版社(中国語)