小説「新・人間革命」  7月31日 命宝28

 堅固な創価学会の建設のためには、各方面や各地域を、一カ所、また一カ所と、盤石にしていく以外にない。

 その意味から、山本伸一は、東京で行われてきた本部総会を、各方面で行うことを提案した。

そして、二年前は関西の大阪、前年は中部の名古屋で開催され、原爆投下から三十年となる、この年の本部総会は、中国の広島で開かれることになったのである。

 伸一は、世界平和への新しき誓いを固める総会にしようと、提言も考え、講演原稿の準備にも、ことのほか力を注いできた。

 彼が、それを側近の幹部に語ると、その幹部は、驚いたような口調で尋ねた。

 「先生は、これまでも、実に多くの平和提言を重ねられておりますが、どうすれば、そのように次々と、事態の改善策や改革のプランが浮かぶのでしょうか」

 伸一は苦笑しながら答えた。

 「真剣だからです。核兵器の廃絶、戦争の絶滅を、戸田先生の弟子として、わが責任と定めているからです。本当に自分の責任で実現させなければならないと思えば、いやでも、さまざまな問題点が見えてくる。

そして、おのずから、どうすべきかを考える。

 これは、広宣流布についても同じです。本気になって、自分が責任をもとうとすれば、問題がどこにあるか、何をすべきかが、わかってくる。したがって、その人は、必ず多くの建設的な意見をもっているものです。

 裏返せば、皆で協議をしても、何も意見や提案が出てこないということは、真剣でないということでもある」

 一九七五年(昭和五十年)十一月九日。

 第三十八回本部総会は、広島城の近くの県立体育館で、午後一時二十分過ぎから、晴れやかに開催された。

 晩秋の、さわやかな風が、会場周辺の色づき始めた木々を、ほのかに揺らしていた。

 開会前には雨が降ったが、次第に空は晴れ、鮮やかな虹が懸かった。