小説「新・人間革命」  8月27日 命宝50

 呉会館にいた婦人たちは、唱題を始めた。

 そこに、広島文化会館から電話が入った。

 竹島登志栄が電話に出ると、山口県婦人部長の直井美子からであった。

 「あっ、竹島さん。中国婦人部長の岡田郁枝さんを呼んでいただけますか!」

 直井の緊迫した声が、受話器から響いた。

 竹島は、答えた。

 「岡田婦人部長なら、さきほど、広島文化会館にお帰りになりました」

 「えーっ、そちらに行かれましたよ!」

 「どなたがですか」

 「先生よ! 山本先生よ!」

 今度は、竹島が「えーっ」と言ったきり、絶句した。 

 竹島は、電話を切ると、急いで皆に、山本会長が呉に向かっていることを伝えた。さっきまで泣いていた婦人たちの顔に、光が差した。涙は、嬉し涙に変わった。

 会館に残っていた人が手分けして、家に帰ろうと、停留所でバスを待っている人などを、呼び戻しに走った。

 山本伸一は、午後一時四十分ごろ、広島文化会館で、県幹部から「呉では、先生のご訪問をお待ちして、大勢の同志が集まっております」との報告を受けた。伸一は、これから、広島市内の寺院を訪問する予定であった。

 「そうか。それなら、ぜひ、呉にも行ってあげたいな。みんな喜ぶだろうな」

 呉会館まで、片道一時間余りであるという。

 伸一は、時計を見た。

 「呉に行っても、今夜の勤行会までには、こっちに戻れるね。よし、行こう!」

 伸一は、直ちに車で出発した。

 勝利は迅速果敢な行動にある――それが、ナポレオンの戦闘哲学であった。

 時は、走り去っていく。「今」という時は、二度と来ることはない。ゆえに、機会を逃さぬ、電光石火の行動が大事なのだ。それが、広宣流布の新しき流れを開くのだ。

 伸一は、広島市内の寺院を訪ねたあと、同志の待つ、呉へと急いだ。