小説「新・人間革命」  9月5日 命宝58

山本伸一の乗った車は、広島市へと急いだ。午後七時から行われる、広島文化会館での勤行会に出席するためである。

 途中、生花店の前に、十人ほどの人たちが、人待ち顔で道路の方を見て立っていた。婦人や壮年に交じって、女子中学生や女子高校生もいた。

 伸一は、運転手に言った。

 「"うちの人"たちだよ。ちょっと、車を止めてくれないか」

 呉会館の勤行会に、間に合わなかったために、「せめて、ここで、山本会長をお見送りしよう」と、待っていた人たちであった。

 そこに黒塗りの乗用車が止まった。窓が開き、伸一の笑顔がのぞいた。歓声があがった。

 女子中学生の一人が、抱えていたユリの花束を差し出した。伸一に渡そうと、用意していたのだ。

 「ありがとう! 皆さんの真心は忘れません。また、お会いしましょう」

 伸一は、こう言って、花束を受け取った。

 ――それから間もなく、そこにいた人たちに、伸一から菓子が届いた。

 また、しばらく行くと、バスの停留所に、何人かの婦人たちがいた。はた目には、ただ、バスを待っている人にしか見えなかった。

 「今、バス停に、"うちの人"が五人いたね。念珠と袱紗を贈ってあげて」

 伸一の指示を無線で聞いた後続車両の同行幹部が、念珠などを持って停留所に駆けつけると、確かに五人の婦人たちは、皆、学会員であった。同行幹部の驚きは大きかった。

 学会員は、皆が尊き仏子である。皆が地涌の菩薩である。その人を、讃え、守り、励ますなかに、広宣流布の聖業の成就がある。

 ゆえに、伸一は、大切な会員を一人として見過ごすことなく、「励まし」の光を注ごうと、全生命を燃やし尽くした。だから、彼には、瞬時に、学会員がわかったのである。

 「励まし」は、創価の生命線である。

 彼は、その会員厳護の精神を、断じて全幹部に伝え抜こうと、決意していたのである。