小説「新・人間革命」  9月7日 命宝59

広島文化会館に到着した山本伸一は、勤行会の会場に姿を現した。

 勤行会でのあいさつで、彼は訴えた。

 「本当の仏法は、絢爛たる伽藍の中で、民衆を額ずかせ、僧侶が教えを説く、僧侶中心の伽藍仏法ではない。大聖人の仏法は民衆仏法です。主役は社会で戦う在家の民衆です。

 事実、皆さんは、立派な社会人として生活され、常識豊かに、社会の尊敬と信頼を勝ち得つつ、布教に汗を流し、指導もし、広宣流布を推進してくださっている。

 そして、万人が『仏』の生命を具えているという、生命尊厳の思想を、広く世界に伝え抜いておられる。

 この私たちの運動は、前代未聞の仏教運動といえます。

いわば、創価学会広宣流布運動こそ、現代における宗教革命の新しき波であり、人間仏法、民衆仏法の幕開けであることを、知っていただきたいのであります」

 中国・広島で、激闘の限りを尽くした伸一は、翌十二日には舞台を中部に移し、愛知、岐阜でも、全力の激励が続いた。

 全身全霊を注いでの山本伸一の指導行は、師走に入っても、とどまることはなかった。

 十二月三日から十日までは、鹿児島の九州総合研修所(当時)で第一回冬季講習会の指揮を執り、さらに、二十四日から二十九日まで、栃木・群馬指導が行われたのである。

 崩れざる幸福を築くには、わが生命を磨き、輝かせるしかない。そのための信仰であり、それを教えるための指導である。

 トルストイは、「生命は幸福の為めに我々に与えられている」(注)と述べている。

 私たちは、幸福になるために生まれてきたのだ。皆が、幸福であると胸を張って断言できてこそ、真実の平和といえるのだ。

 伸一は、吹き荒れる北風の中を走った。彼は、寒風に挑むかのように、新しき年へ、ますます闘志を燃え上がらせていった。

 間断なき挑戦と闘争のなかにこそ、生命の歓喜と躍動があるのだ。(第二十二巻終了)



 【おことわり】資料収集のため、しばらくの間、休載させていただきます。ご了承ください。筆者



引用文献:  注 「互に愛せよ」(『トルストイ全集18』所収)深見尚行訳、岩波書店=現代表記に改めた。