小説「新・人間革命」  12月15日 未来23

 札幌創価幼稚園の入園式に集って来た園児たちは、保育室に入り、父母たちは、式場となる遊戯室で待機した。

 園児たちを迎え終わった山本伸一は、式場に行き、父母たちに、わが子を創価幼稚園に入園させてくれたことへの深い感謝の心を込めて、丁重にあいさつした。そして、せめてもの御礼として、ピアノで「さくら」を演奏するのであった。

 やがて、園児たちの入場となった。

 はぐれないように、前の子どもの肩に手をかけ、一列になって入って来た。皆、緊張した顔で、そろそろと歩いて来る。どことなく寂しい入場風景である。

 伸一は、ピアノが弾ける女子部の幹部に、何か曲を演奏するように言った。

 「むすんでひらいて」のメロディーが流れた。父母たちの手拍子が広がった。その軽やかなリズムに乗って、子どもたちは笑顔で歩き始めた。明るい入場となった。

 教育に限らず、現場では、臨機応変な対応が必要となる。マニュアル(手引書)通りには、事は進まない。大切なのは機転である。機転とは、智慧と責任感の産物である。

 伸一は、式場の外に出て、入場する園児たちを迎えた。そして、最後の園児と一緒に式場に入り、園児席の最後列に座った。

 本来であれば、創立者として、園児や保護者と向かい合う場所に座るべきであったかもしれない。しかし、伸一は、あえて、そうはしなかったのである。

 それは“私は、お父さんやお母さんの先頭に立って、生涯、みんなのことを見守り続けていくからね”という思いの表明であった。その心を、いつか、園児たちは、わかってくれるだろうと、彼は思った。

 「影響を与えつつ後ろから付き添う」(注)とは、インドネシアの教育の父キ・ハジャル・デワンタラが残した教育の指針である。

 皆で「むすんでひらいて」の手遊びをし、緊張がほぐれたところで、札幌創価幼稚園の第一回入園式が始まった。