小説「新・人間革命」 6月28日 敢闘21

人類の未来を仰ぎ見るように、山本伸一は目を細めて語っていった。
 「資本主義、自由主義の国々にあっても、やはり、人間革命が最大のテーマになってきます。人間のエゴが、野放図に肥大化していけば、社会の混乱は避けられません。
 さらに、戦争などの元凶もまた、その人間のエゴにこそあります。
 どうか諸君は、社会にあって、大指導者に成長し、仏法の人間革命の哲理を訴え抜いていってください。二十一世紀は、諸君の双肩にある。諸君の成長こそが、私の最高の喜びです。
 この『学生部厚田会』に、私が作った『人間革命の歌』のテープと、カセットデッキを差し上げます。『厚田村』のテープも置いていきます。
これらの歌を聴きながら、生涯、父母のため、民衆の幸福のために、威風堂々と、広宣流布の大道を歩み通してください」
 これが、中部学生部に対する、この夏季講習会の「最終講義」となったのである。
 伸一は、敢闘していた。励ましの一場面、一場面が、人間触発の格闘劇でもあった。
 七月三十日からは、舞台を神奈川県の箱根研修所(現在の神奈川研修道場)に移し、男子中等部や東京・新宿区の女子部などの夏季研修会に出席し、指導を重ねた。
 引き続き、創価大学などでの各種研修会に臨み、八月六日には、鹿児島県の九州総合研修所(現在の二十一世紀自然研修道場)に飛んだ。
そして、十二日に東京に戻り、三日間にわたる茨城指導、創価大学での諸行事を終えると、再び十九日から、九州総合研修所を訪れたのである。
 彼は、一分一秒が惜しかった。人と会い、人と語り、一人ひとりの心に、発心の光を注ぎ、一騎当千の人材を育てることに必死であった。
すべての戦いは、時間との戦いといってよい。行動をためらい、時を浪費した者が、敗者となる。
 「時間をかちとることは、勝利を意味する」(注)とは、中国の周恩来総理の命の叫びだ。
 
■引用文献 :  注 新井宝雄著『革命児周恩来の実践』潮出版社